上州貨物自動車K所長の名誉毀損民事裁判で組合勝利判決
2025年3月17日に上州貨物自動車の高崎営業所長で執行役員のKが群馬合同労組上州貨物自動車分会長を訴えた裁判の判決があった。訴え棄却の分会長勝利判決!この裁判はKが分会長が同僚に送ったラインのメッセージが名誉毀損・侮辱に当たるとして、220万円を払えと訴えたもの。冗談ではない。当然のこととはいえ分会長の完全な勝利です。Kのうそとでたらめが判決で認定されたことは大きい。Kとその同調者にはこれからしっかり責任を取ってもらいたい。
以下は判決抜粋。
令和5年(ワ)第159号損害賠償請求事件
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
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第3当裁判所の判断
名誉毀損の不法行為は問題とされる表現が人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである。
ただし、事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。その区別については、当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものと理解されるときは、当該表現は特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり、そのような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである。
そして、その区別は、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。
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…被告の本件メッセージ送信行為には公然性があると認められる。
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…本件表現①の「このような詐欺の手口で正社員を1年契納社員に変更することは法律で禁止されています。」との記載は、…意見ないし論評の表明に当たるといえる。そして…原告の社会的評価を低下させるものといえる。
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…本件表現②のうち「K所長にだまされてはいけません。1年の有期雇用契約に署名なつ印してしまえば、いつ解雇されるかわかりません。あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題のK所長の奴隷にされてしまいます。」との記裁は…意見ないし論評の表明といえる。そして、…原告の社会的評価を低下させるものといえる。
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…本件表現③の「群馬合同労組はK所長のC組合員に対する差別や嫌がらせを群馬県労働季員会に訴えて、これから調査と証人尋問が始まります。」との記載は事実の摘示に当たる。…直ちに原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。
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…本件表現④の「まずいことはウソと脅しで押さえつけて来たやり方はもう通用しません。」との記載は、…意見ないし論評を表明に当たるといえる。そして、…原告の社会的評価を低下させるものといえる。
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よって、本件表現①、②及び④は、原告の名誉を毅損するものといえ、本件表現③は原告の名誉を般損するものとはいえない。
…本件表現①、②及び④はいずれも意見ないし論評の表明に当たる。
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…ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつその目的が専ら公益を図ることにあった場合に、当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、当該表現は違法性を欠くものというべきであり、仮に上記証明がないときも、行為者において上記事実の重要部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。
本件表現①、②及び④を含む本件メッセージは、その内容及び送信先が本件会社高崎営業所の従業員であることからして、被告が他の従業員に対し、労働組合の結成及び雇用契約更新時に不利益な変更が行われていることを知らせ、労働組合への加入を呼びかける目的で送信したものと認められるから、公共の利害に関する事実に係り、かつその目的が専ら公益を図ることにあった場合に当たるといえる。
本件表現①は、…契約更新の際、期間の定めのない雇用契約を1年の有期雇用契約に変更する内容であったにもかかわらず、原告は、従業員に対し、査定の結果だけを説明し、他に変更はないような顔をして、契約書に署名捺印させたことを前提としているところ、証拠…によれば、令和4年3月の契約更新の際、原告は、被告に対し、査定の結果のみを説明し、1年の有期雇用契約に変更する内容であることを口頭では説明していないことが認められるから、本件表現①の前提とする事実は重要な部分について真実であると認められる。
原告は、雇用契約書を提示した旨供述し(原告本人)、被告が署名押印した雇用契約書…にも期間の定めが明記されていることが認められるが、従業員にとって重要な内容である雇用期間の定めを無期から有期に変更することについて、何ら言及することなく、書面に記載したことのみで従業員が変更点を認識し、承諾したとはいえず、本件表現①の前提とする事実は重要な部分について真実であるとの認定は左右されない。
そして、本件表現①は、人身攻撃に及ぶものとはいえず、意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないから、違法性は阻却されるというべきである。
本件表現②のうち、「K所長にだまされてはいけません。1年の有期雇用契約に署名なつ印してしまえば、いつ解雇されるかわかりません。」との記載は、本件表現①と同様、期間の定めのない雇用契約を1年の有期雇用契約に変更する内容であったにもかかわらず、原告は、従業員に対し、査定の結果だけを説明し、他に変更はないような顔をして、契約書に署名捺印させたことを前提としていると解されるところ、かかる事実の重要な部分は真実であると認められる。また、同表現について、人身攻撃に及ぶものとはいえず、意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない。
本件表現②のうち、「あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題のK所長の奴隷にされてしまいます。」との記載は、期間の定めのない雇用契約を1年の有期雇用契約に変更したことについて、原告は従業員に説明をしたと述べたが、面談時の録音から何の説明もされていなかったことが明らかとなったこと及びその後もなお、原告が1年の有期雇用契約が有効だと主張したことを意見ないし論評の前提としていると解されるところ、被告との契約更新の面談時の録音において、期間の定めのない雇用契約を1年の有期雇用契約に変更することについての説明がなされていないこと…及び原告が有期雇用契約への変更について口頭で説明しなかったことを認めながら、雇用契約書を示したから問題ないとの認識であったこと…が認められるから、当該意見ないし論評の前提としている事実は重要な部分について真実であると認められる。
本件表現②の「あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題のK所長の奴隷にされてしまいます。」との表現は、不穏当ではあるものの、本件メッセージが、被告が他の従業員に対し、労働組合の結成を知らせ、不利益変更の契約更新拒否を呼びかけるものであることに照らせば、高崎営業所長である原告の対応を批判する強い表現となるのはやむを得ない面があり、人身攻撃に及ぶとまではいえず、意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない。
よって本件表現②は、違法性を欠くものというべきである。
本件表現④の「まずいことはウソと脅しで押さえつけて来たやり方はもう通用しません。」との表現は、口頭で説明することなく期間の定めのない雇用契約を有期雇用契約に変更したこと、説明していないのに説明したと述べたり、変更後の有期雇用契約が有効であると主張したことを当該意見ないし論評の前提としていると解されるところ、契約更新の面接時に雇用期間の定めの変更について口頭で説明していないこと…、口頭で説明していないのに説明したと述べたり、変更後の有期雇用契約が有効であると主張したこと(原告本人)は真実であると認められる。そして、本件表現④は、人身攻撃に及ぶとはいえず、意見ないし論評としての域を逸脱したものでないから、違法性を欠くものというべきである。
よって、本件表現①、②及び④は、名誉毀損に当たるものの、違法性は阻却されるというべきである。
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告には、原告に対する名誉毀損の不法行為は成立しない。
争点②ア(本件表現①及び②につき、原告に対する侮辱の不法行為に当たるか) について
名誉感情も法的保護に値する利益であり、表現態様が著しく侮辱的、誹誘中傷的である等、社会通念上許容される限度を超える侮辱行為は、人格権を侵害するものとして不法行為を構成すると解される。
本件表現①のうち「詐欺の手口」は、犯罪の手段と同じ又は類似した手段を意味すると解されるから、原告の名誉感情を害するとはいえる。しかし、本件表現①の表現態様が著しく誹謗中傷的であるとはいえず、社会通念上許容される限度を超えるとはいえない。
本件表現②のうち、「あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題」との表現は、原告の名誉感情を害するとはいえるものの、一般的になされる批判的な表現であり、社会通念上許容される限度を超えるとはいえない。また、「K所長の奴隷にされてしまいます。」との表現は、他者を服従させることを意味すると解され、原告の名誉感情を害するとはいえる。しかし、本件メッセージの内容からして、使用者側を強く批判する表現となるのはやむを得ない面があり、本件表現②の表現態様が著しく誹謗中傷的であるとまではいえず、社会通念上許容される限度を超えるとまではいえない。
よって、本件表現①及び②について、原告に対する侮辱の不法行為には当たらない。
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告には、原告に対する侮辱の不法行為は成立しない。
結論
よって、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。
前橋地方裁判所高崎支部
裁判官 加藤紀子