介護事業者Aと春闘で団交
2024年4月1日、N組合員がパートとして働く介護事業者・株式会社Aと賃上げを求めて春闘団体交渉を行いました。団交に参加した組合員が報告を書いてくれました。
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昨日、4月1日午後3時半から地元で、娘が働く高齢者介護施設と群馬合同労働組合との団体交渉が行われた。
この介護施設に組合は無い。労働組合員は、誰でも一人でも入れる「群馬合同労働組合」に加入しているパート調理員兼介護職員の我が娘ただ一人。
今回の団体交渉は、特に娘がパワハラを受けた等の問題が起こったわけではなく、群馬合同労組の春闘統一要求に沿った「非正規職労働者の時給を一律で1500円に引き上げてください」の要求、ただ1点!
他には給料明細の説明要求、就業規則、給与規定、36協定書(残業についての労使協定書)の提出要求のみ。
会社側は事前に回答書も書類もすべて出してくれた。賃金テーブル表その他の賃金規定に付随する表も提出してくれた。回答書の主な中味、つまり時給1500円への引き上げは、もちろん拒否だったけれど、給料明細については一応の説明を返して来ていた。
そしてこの団体交渉に、群馬合同労組組合員である私と夫も、娘とともに参加することとなった。
いつも参加している他の団交では、問題山積みの会社との交渉が多く、2時間ギリギリまでシビアな話し合いが続くのだが、今回は特に会社側に問題があったわけでもなく、親としては、こんなことで1時間半の団交が成立するのか?と、かえって不安でいっぱいだった(当初は組合側参加者が私たち親だけだったらという不安もあった)。
でも群馬合同労組の方針は、「本人がやりたいと思ったらできる限りやってみる。」「たとえ少人数でもやる。」
そしてこの団交は、娘が望んだこと。要求書は娘が自分で書いたもの。
幸い多忙な中、二人の組合員が高崎からかけつけてくれて、組合側参加者は娘と執行委員長の清水さん、私たち夫婦も合わせて6名。
会社側参加者は東京から代理人弁護士が2名、本社から管理職2名、顧問社労士1名。代表取締役の参加は無し。
互いの自己紹介の後、清水さんが要求書と要求書の要求項目ごとに会社側回答書を読み上げる。会社側回答は、
「非正規労働者の時給を一律で1500円に引き上げる旨の要求には応じることはできません。弊社は介護事業者であり、国の介護制度の枠組みの範囲で限られた収入の中で経営をしているため、非正規労働者の時給を一律で1500円に引き上げることは困難です。」
これに対して清水委員長が、
「国の枠組みの中、限られた収入の中で経営が厳しいことはわからないでもないが、今非正規の労働者は物価上昇で時給1500円でも苦しい。国でさえも数年先を見据えて時給1500円を言い始めている。コストコのようにすでに1500円を実現している会社も出てきた。
業界全体で足並みを揃えたい、先頭を切って損をしたくないという気持ちはわからないでもないが、どこかが口火を切ってそれを実現しなければ世の中は良くならない。そういう意味で非正規春闘時給1500円を闘っている。この団交もその一環であるということで理解願いたい。」と伝えた。
この応答以後、短時間で交渉が終わってしまうかもしれない、という不安は吹き飛んだ。
次の、給料明細とそれに関連した給与規定の説明も含め、娘や組合員たちから、次から次から疑問や意見が飛び出した。
主な疑問は、娘を含め、介護士たちの基本給(賃金の会社負担分)が「最低賃金以下」であること。
国の補助金を上乗せして、やっと最低賃金を上回っていること。
国の補助金が介護職場の最低賃金の穴埋めに使われていること。
そしてこれが全国の介護施設で広く行われているらしいこと。
なぜ介護業界は、そんなことになってしまっているのだ!という疑問と怒り。
最初の国の思惑は、そんなはずではなかったはずだ。介護職場が支払う最低賃金以上の賃金に上乗せする手当として支払われることを想定していたはずだ。
しかし今、介護業界は、最低賃金を割る賃金に国からの支援金を上乗せして、やっと最低賃金をクリアしている。いつからそんなひどい状態を続けないと現場が維持できないことになったのか!
こんな大事なことが、世間一般にはきちんと知られていない。実は私たち夫婦も前日になって初めてそのことを知った(娘は前から何度も私たちに伝えていたという。でも私たちはピンと来ていなかった。お尻に火がつかないと人間そんなものか!と愕然とした)。
娘は以前の会社で、様々な労働法違反の対応を経験している。それに比べて今の会社は、目立った法律違反もなく、それなりに国の枠組みの中で一生懸命経営している会社に見える。団交への対応も誠実に思える。
この会社だけを責めても始まらない。国と介護業界全体がこの事実を放置している。
基本給のうちの会社が負担する額が「最低賃金以下」だということ。これを、「これが介護業界の常識なんだから仕方ない」と諦めるか、「やっぱりこんなこと間違っている」と労働組合に加入して異議を申し立てるか、人生の別れ道だ。娘は良い選択をしたと思う。たとえすぐに解決できる問題ではないとしても。
また、会社が出してくれた賃金テーブル表は1号(1年)で時給たった5円の定期昇給を定めているけれど(人事考課の評価が良ければ数号の飛び級はありうると会社側は言っているが)、これだと100年働いても時給1500円には届かないことがわかった。なんてこった!労働者を、エッセンシャルワーカーを、何だと思っている!
今回出席した管理職2人だって、こうした不合理を本当は実感しているはずだ。社長はこうした不合理を即刻改めるべきだ。
それでも会社側は、組合側が指摘した問題点について一旦持ち帰って検討すると約束した。これからの交渉進展に期待します。
組合に加入し、要求書を出し、団体交渉を行うということで、会社側ときちんと話し合いができ、お互いに理解し合い、問題解決の糸口を探ることができる。色々な情報も共有できる。組合に加入して団体交渉に参加することは本当に大切なことだと実感した。
最後に委員長始め組合員が口々に、会社側に向かって「こんな今の状況を打破するために、国と闘って欲しい」と訴えた。
娘の以前の争議(Y新聞◯◯販売店での団交、労働委員会)にいつも参加して下さった群馬合同労組副委員長の須永さんがこの団交直前に病気で倒れ(今は療養中)、来ていただけなかったのが寂しかったです。