上州貨物自動車地労委が結審、年度内に命令の予定
上州貨物自動車の不当労働行為の救済を申し立てて闘ってきた群馬県労働委員会。証人尋問も終わって10月21日に結審した。命令は来年3月までには交付される予定である。
群馬県労働委員会は、群馬合同労組の吉ケ谷の事件では全部棄却の不当決定を出したので、現在前橋地裁で取消訴訟が始まっている。しかし、今回の上州貨物自動車事件では救済命令は揺るがない。
なんといっても会社が要求した就業規則を組合に開示しなかった不誠実交渉の事実がある。同じ内容の救済申立で、同じ群馬県労働委員会が、群馬合同労組群馬バス事件で出した救済命令の前例がある。
「会社は、団体交渉において、組合員の労働条件に関する事項の確認に必要な資料を提供するなどし、組合の理解を得る努力をする必要があったのに、これを怠ったといわざるを得ず、誠実交渉義務を果たしていたとはいえない。よって、会社が就業規則等を交付しないことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。」
ただでさえこのような救済命令が出ているのに、上州貨物自動車がやったのは不当労働行為のオンパレードだ。就業規則を組合に開示しなかっただけではなく、組合通告の10日後にこっそり就業規則の懲戒規定を改定していた。そしてこの違法に改定した懲戒規定を使って、2名の組合員に2カ月の自宅待機命令を出し、賃金不支給・減額の脅しをかけて懲戒審査にかけた。自宅待機命令書を営業所掲示板に貼りだし掲示し続けた。自宅待機が明けると今度は不当配転。他の従業員から解雇・処分を求める陳情書を出させ、それを配転理由にした。それでも飽き足らず分会長を名誉毀損・威力業務妨害で刑事告訴と損害賠償請求をかけた。組合員を追い出したら勝ちだとばかりに、やりたい放題だった。
しかしこの就業規則の改ざんが組合にバレた。会社は代理人にも、この就業規則の違法な改定・改ざんを黙っていたのだ。これを追及されると代理人朝妻太郎も言葉を失った。
これで組合員を懲戒で解雇に追い込む目論見が破綻した。懲戒処分は就業規則を根拠に出すものなのに、その就業規則が違法に改定・改ざんされていたとあっては通用しない。
結局2ヶ月の自宅待機の末の懲戒処分は訓戒だけ。刑事告訴も不起訴決定。今は攻守が完全に逆転している。
群馬県労働委員会がどこまで不当労働行為を認定して、どこまで救済命令を出すか、注目をしてもらいたい。
10月21日に行った第12回団体交渉では、会社は新たに改定した就業規則に関して、組合が交付を求めたことに対して、性懲りもなく、組合が誓約書を書かなければ出さないと回答した。しかしこの誓約書が、正当な組合活動を阻害する内容を含むため、組合は断固拒否した。追いつめられてもなおあがく会社を許さない。
組合が群馬県労働委員会に提出した最後陳述書を長いが紹介する。
群労委令和5年(不)第3号・令和5年(不)第4号・令和5年(不)第5号
上州貨物自動車株式会社不当労働行為救済申立併合事件
2024年10月15日
群馬県労働委員会
会 長 新井 博 様
申立人 群馬県高崎市柴崎町60-2
群馬合同労働組合
執行委員長 清水彰二
最後陳述書
1 団体交渉拒否
被申立人が、申立人に就業規則、賃金規程、労使協定書等を交付しなかったことが、労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否(誠実交渉義務違反)に該当するか。
(1)群労委平成29年(不)第1号・同29年(不)第2号・同29年(不)第4号株式会社群馬バス不当労働行為救済申立併合事件の命令書の判断
群馬県労働委員会は、申立人が申し立てた群労委平成29年(不)第1号・同29年(不)第2号・同29年(不)第4号株式会社群馬バス不当労働行為救済申立併合事件の命令書において、以下のように判断を示した。(同命令書51頁~)
「(ア)一般的に、労働組合等において、自らに所属する組合員の労働条件に関する事項について法令違反その他取扱い上の不備がないかどうかを調査点検し、団体交渉を通じてその是正改良を求めることは、日本国憲法第28条の団体交渉権に含まれ、正当な組合活動であると解するのが相当である。特に、結成間もない労働組合がこのような活動を行う場合においては、その必要性が高いことから、原則として会社には、誠実交渉義務の観点から上記活動に対して一定の協力をする義務が生じるというべきである。そして、当該活動に必要な資料について、労働組合からの提供要求に応じることができない正当な理由がある場合には、当該労働組合に対し、その正当な理由を充分に説明することが必要となる。
…
団結権及び団体交渉権の保障は、労働組合を、組合員を代表して対等に労働条件を決定する相手方として使用者が承認すべきことを求めるものである。したがって、たとえ、事実上、当該組合員らが就業規則等を閲覧できる機会があったとしても、また、使用者が個々の組合員に労働条件に関する説明を行ったとしても、組合員を代表して労働条件決定を担う相手方たる労働組合との関係では、なお上記のような資料を提供すべき義務があると解せられる。
…
このような団結権及び団体交渉権保障の趣旨に鑑みると、会社が個々の組合員に就業規則を閲覧できる条件を整えていたこと及び組合が求める労働条件に関する資料について直接説明したことをもって直ちに誠実交渉義務を果たしたということはできず、会社の主張は、採用できない。
…
また、就業規則等が機密情報を含むが故に交付できないのであれば、会社は、団体交渉の場で当該資料のいかなる部分が機密情報に該当するのか、組合に交付するとどのような不利益が生ずるのか等の説明を尽くすべきであるが、会社はそのような説明義務を果たしているともいえない。
…
団体交渉は、原則として、労働条件に関する合意形成を目指して行われるものであるが、必ずしもそれに限定されるわけではない。すなわち、…組合が、特定の労働条件の維持改善要求ではなく、組合員の労働条件が法令等に照らして適正に規律されているか否か、また、実際に業務を遂行する過程において法令及び就業規則等に定められた基準が遵守されているか否か検証する場であるともいえる。
…会社は、団体交渉において、組合員の労働条件に関する事項の確認に必要な資料を提供するなどし、組合の理解を得る努力をする必要があったのに、これを怠ったといわざるを得ず、誠実交渉義務を果たしていたとはいえない。よって、会社が就業規則等を交付しないことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。」
(2)団体交渉権の正当な行使
2022年11月18日付要求書における要求事項は、A組合員の雇用契約と契約期間に関するもの、賃金に関するもの、労働時間管理に関するもの、出社時間の処遇に係るものなどであり、義務的団交事項に係るものであった。同時に、雇用契約、賃金、労働時間管理、残業代計算、出勤、懲戒に係るものであり、組合員のこれらの処遇が適正であるか否かを評価するにあたり、就業規則・賃金規程・36協定書及びその他現在有効な労使協定書の写しの交付は、必要不可欠であった。総じて、同要求書は団体交渉権の正当な行使であった。
(3)就業規則等の不交付は誠実交渉義務違反である
被申立人は、就業規則等を事業所内に備え置いて閲覧できる状態に置いているので、就業規則等の閲覧で対応されたい旨の回答を行い(甲13)、就業規則等の交付を拒否した。これは(1)で示したすに照らし合わせて明白な誠実交渉義務違反である。
また被申立人は「どの部分が必要であるか明らかにされたい」との釈明を求めたが、申立人が応じなかったことが問題であると主張する。そもそもこれ自体が誠実交渉義務違反であることは明らかであるが、申立人は漫然と要求しているのではなく、要求事項からして関連する就業規則部分は明らかであり、これを交付できない理由があるのならば、その理由を被申立人が説明をして理解を求めなければならない。
なお、審問を通して、被申立人・Kは「出した方がいいっていうか、私が、とりあえず、最終的には出さなくては解決もしないというのは組合もやってましたから分かってましたけれども、取り急ぎ、1回ちょっと、それは見合わせようということになりましたので、そのままそういうふうに書いたっていうだけの話だとは思うんですけれども。」と証言した(第4回審問証言速記録第1冊20頁下から11行目~)。被申立人の不当労働行為意思を自認したに等しい。
(4)懲戒規定を違法に改定し周知せずに懲戒手続き行う不当労働行為意思
被申立人は、就業規則等は備置きを行い周知義務を果たしていると主張するが、就業規則自体を違法に改定し、とりわけ懲戒規定の改定を意図的に周知せずに差替えた。またその時期は申立人が就業規則等の交付を求めた2022年11月18日の10日後の11月28日である。被申立人は改定を周知せず、申立人に隠した上に、就業規則等の交付を拒否したのであり、悪質である。
(5)結論
よって、被申立人が就業規則等の交付に応じなかった行為は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
2 支配介入
次の(1)ないし(4)の行為は、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当するか。
(1)被申立人高崎営業所長Kらが、令和4年11月23日から6回にわたり、申立人組合員Aの車両点検作業のビデオ撮影を行ったこと。
- ビデオ撮影の形態と効果
ビデオ撮影はA組合員に対して令和4年11月23日から6回行われた。出社点呼から点検の報告で事務所に戻るまで、撮影者(一番最初はK所長、その後はK所長、事務職員)がビデオカメラで撮影しながら一部始終ついて回って撮影している。その状況は、出勤している従業員はもとより、営業所前の通行人にも見える形での撮影であった。
後に被申立人はA組合員以外の従業員のビデオ撮影を行うが、これは当労働組合の抗議に対する対応で決めたものであり、A組合員だけを対象に差別的に行おうとしたものであることは明らかである。
ビデオ撮影を通して、他の従業員は組合に入るとこういう嫌がらせをされるのだなと認識した。
この点は証人尋問を通して、以下の通り明らかになった。
清水 それについてどういうふうに思いましたか。
B組合員 何でAさんだけするんだろうっては、思っていました。
清水 組合に入ったからやられてるというふうに思いましたか。
B組合員 思いました。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 1頁5行目~)
(朝妻から「嫌がらせのようなこと」を具体的に聞かれて)
C組合員 ビデオ撮影したっていうのと、あと10分前には敷地内に入るなというのと、あと長距離ですかね、普段皆さん、近揚をやったり長距離をやったりがあるんですけど毎回毎回ずっと、遠い、長距離の仕事を与えられていたことですかね。
(第2回審問 証言速記録(第2冊) 21頁9行目~)
A組合員 23日から1回目のビデオ撮影が始まりましたけれども、撮影者は初めKさんでした。事前に何のために撮るかという説明も一切ありませんでした。私は、組合加入通知を18日に出しておりましたので、これは私に対しての嫌がらせと、他の社員に対しての見せしめだなと思いました。
(A組合員 第1回審問 証言速記録(第1冊) 5頁16行目~
- ビデオ撮影の合理的理由はない
被申立人・佐藤代表取締役はA組合員に対するビデオ撮影の理由は点検時間の問題であると、証人尋問で以下のように証言した。
審査委員長 そうすると、Aさんに限ってですけれども、Aさんについてビデオ撮影をしようとした一番の理由は、点検時間ですね。
佐藤 はい。
審査委員長 点検のやり方ということではなかったですね。
佐藤 そうですね。
審査委員長 それで、ビデオ撮影期間は令和4年12月20日に一応終わっています、Aさんのね。そうすると、ビデオ撮影が終わって、その確認をして、その結果を、報告を受けるわけですよね。どんな報告でした。
佐藤 ですから先ほどお話ししたように、それほど大幅な超過の時間は認められなかったという報告を受けてます。
この点検時間については、甲40号証で示した通り、少なくともA組合員の2022年9月22日から11月23日の、ビデオ撮影開始前2カ月間に、A組合員が10分以内に終了できていないと特定できる日はない。またそれ以前に、A組合員が点検時間がかかりすぎていると指摘されたことはない。
よってビデオ撮影を行う合理的理由が存在しないことは明らかである。
この点について、Kは証人尋問で以下の通り証言したが根拠はない。
清水 A組合員さんがチャート紙を全部チェックして、出したけれども、それほど遅くないということで、会社もその判断をしてますけれども、それはご存じないですか。
K 会社はそういう判断をしていませんよ。
清水 遅いと判断したんですか。
K はい。ただ、そのビデオを撮ってからは、普通に、正常に戻りました。
(第4回審問証言速記録(第1冊)25頁16行目~)
- 結論
よって被申立人高崎営業所長Kらが、令和4年11月23日から6回にわたり、申立人組合員Aの車両点検作業のビデオ撮影を行ったことは、労働組合法第7条第3号の支配介入に該当する。
(2)令和4年11月28日付けで被申立人が就業規則の懲戒処分に関する規定部分を改定したこと。
- 被申立人が行った懲戒処分に関する規定部分の変更は、変更の履歴を残さず、従業員代表の意見も付さず、労働基準監督署への届出も行っていない。被申立人は、「失念」と証言するが、虚偽の証言である。明らかに被申立人は懲戒処分の規定の改定を隠蔽して、まさに改ざんする意図を有していたというほかはない。
- 被申立人は就業規則の改定の中身を「社労士さんのご提案のとおり」(佐藤代表取締役社長、第3回審問証言速記録第1冊 8頁6行目~)であり、Kは関わっていない(同8頁18行目)と証言するが、信用できない。
- 高崎営業所長であるKが改定内容を知らずにチェックもせずに受け入れたというのはありえない。Kが組合の委員長をしていた時には「各一条一条を承認するとかそういう形では出し」た(第4回審問証言速記録24頁下から4行目~)のである。労働組合の委員長として4年前の2018年には就業規則の一条一条について承認・不承認の通知を行っていた(甲39)のである。そして改定の10日前に申立人組合から就業規則の開示を求められたのである。執行役員・高崎営業所長になっていたKが、社労士に一任して就業規則を改定していたとは考えられない。事実、Kは第3回団体交渉において就業規則の改定を隠そうとしたが、組合に発覚すると改定部分を理解していたのである(甲43号証27頁1行目~)。Kが、事前に山田社労士と改定内容を協議して作成にかかわっていたのは明らかである。
- 被申立人に、改定した就業規則を根拠にしてA組合員に対する懲戒処分を発動するという目的がなければ、就業規則の改定を秘密に行う理由、就業規則の改定を隠し通そうとした理由が存在しない。
- 時期的に言うと、2022年11月10日マフラーのボルトの問題が業者から報告される、11月18日要求書提出、11月23日A組合員の点検作業のビデオ撮影開始、11月28日就業規則の差替えである。この差し替えられた就業規則の中にはこれまでにない次の服務規律が加えられた。
「(84)運行中は、異音、異臭及び計器類の状態に注意し、整備を要する異状を発見又はその兆候を認めたときは、直ちに運行を中断し速やかに上長及び整備管理者に報告し、指示を仰ぐこと。」
「(68)乗務員は与えられた車両に対し責任を持って保守、点検、整備、清掃を実施し、車両を清潔に保つこと。また燃料・オイル等の準備を怠らず、不時の運転に即応できるように心掛けること。修理及び部品等を必要とする場合は、上長に所定の報告手続きを行うものとする。」
これらの付け加えられた規定はマフラーの「点検不備」を理由として懲戒を可能とするものである。また11月10日のA組合員のマフラーの「点検不備」を懲戒処分に付すために、懲戒部分の改定をしたこと、及び改定日時について隠蔽する必要性があったと思われる。A組合員の点検作業のビデオ撮影とセットで、被申立人がマフラーの「点検不備」でA組合員の懲戒処分を策動していたことは容易に推察できる。
これを裏付けるのは、Kの以下の証言である。ビデオ撮影の目的は、点検の時間だったとの佐藤社長の証言とは違い、Kはビデオ撮影の目的がA組合員の点検内容を記録する意図があったことを証言している(第4回審問証言速記録第1冊 42頁7行目~)。KはA組合員がマフラーの点検をしていない証拠を残そうとしたと推察されるのである。そのように考えれば、Kが2022年11月28日の就業規則の差替えの際に、育児休業規定の改定は周知しながら、懲戒規定の改定を周知しなかった意味が理解できる。Kはまさに就業規則を改ざんして、A組合員の懲戒に使おうとたくらんだのである。
K (※隠し撮りは)できない。細部まで撮れませんので。いくら望遠を使ったとしても。
審査委員長 どんな場所からでも。
K 当然、駐車場はもう全然周りに建物もございませんので、そこから結局隠し撮りをしたところで、撮れないんです。
- 懲戒審査と自宅待機命令に違法に使われた
改定された就業規則の懲戒規定は、実際にA組合員とB組合員に対する2022年3月24日付自宅待機命令書(甲22・23)における懲戒審査の根拠規定として使われた。
結果として、この自宅待機命令書に記載された事案での懲戒処分はできなかったものの、違法で秘密裏に行われた改定に申立人が気づかなければ、抗議・申入れ、不当労働行為救済申立を行わなければ、懲戒処分は行われたであろうことは明らかである。
- 結論
よって、令和4年11月28日付けで被申立人が就業規則の懲戒処分に関する規定部分を改定したことは、組合通告を行ったA組合員への差別的懲戒処分を行う目的で、違法に秘密裏に行った改定であり、労働組合法第7条第3号に該当する。
(3)令和5年1月9日に被申立人従業員が申立人のビラ配布に係る事情聴取を従業員に対して行ったこと及び被申立人が申立人宛て同年2月6日付け回答書により申立人が事情聴取の事実を把握した経緯について説明を求めたこと。
- 令和5年1月9日に被申立人従業員が申立人のビラ配布に係る事情聴取を従業員に対して行ったことは、支配介入である。
- 事情聴取の状況について
ビラまきに対する事情聴取について審問でC組合員は以下の通り証言した。
清水 2023年1月に組合がビラまきをしましたね。
C組合員 はい。
清水 そのときに、Cさんビラを受け取りましたか。
C組合員 受け取りました。
清水 それで、事情聴取を受けましたね。
C組合員 はい。
清水 事情聴取はどこで受けましたか。
C組合員 運転手の休憩所です。
清水 休憩所。
C組合員 はい。
清水 そのときにビラを受け取った人が全員集められたんですか。
C組合員 全員かどうかは、配達の人もいたかと思うので、その場にいた人はあらかた仕事終わっても待ってました。
清水 だから、個別にやったんではなくて、その日にいた人は1ヶ所に集められて、それで事情聴取っていう形でやったわけですね。
C組合員 はい。
清水 そのときにビラを回収しましたか。
C組合員 回収しました。
清水 それを誰が回収したんですか。
C組合員 EさんとDさんです。
清水 どういうふうにやったんですかね。
C組合員 ビラいただいてたら回収させてくださいという形で。
清水 それで、Cさんはビラを出しましたか。
C組合員 私は、出しませんでした。
清水 それは、どういう。
C組合員 たまたま回収しに来なかったというか、回収したと思ったんだか、ちょっとわからないですけども。私も出すつもりはあまりなかったっていうのはあるんですけども。
清水 出したくないなと思って、ごまかして持っていたということでよろしいですか。
C組合員 はい。
(第2回審問証言速記録第2冊 7頁17行目~)
清水 ビラまきについてどう思ったか。
C組合員 はい。
清水 会社に対する不満があるかってことも聞かれたんですかね。
C組合員 聞かれました。
清水 それは、もう聞かれたわけですね。
C組合員 はい。
清水 その中で誰か手を挙げて答えた人がいるんですか。
C組合員 …ちょっと覚えてないですけど、会社の不満があるとかっていうのは、もう全然誰も手を挙げませんでした。
清水 誰も手挙げられないですよね。
C組合員 挙げられない状態だと思います。
清水 それで、全員集めてそういうふうに聞いて、誰も答えがなくて、紙は配られたけども、それにも書けるような状況ではなかったということでよろしいですかね。
C組合員 はい。
(第2回審問証言速記録第2冊 8頁下から3行目~)
ビラ配布に対する事情聴取の理由について、Kは「交通の妨げ」「危険」があったので、その確認のためであったとする(第4回審問証言速記録第1冊 11頁下から9行目~)。しかしながら、以下のKの証言通り、被申立人はその対策のために、管理者として行うべき、現場での監視・確認、注意や申入れを一切行っていない。被申立人が事情聴取を行ったことに合理的な理由はない。
清水 先ほど、ビラの渡し方が、危険な渡し方があったというふうに従業員から言われたと、いうふうに言われました。それは進行を止めたんですか。
K 止めたからそう言うんじゃないでしょうか。
清水 じゃないでしょうかって私に聞かれても困るんですけど。
K 私もその本人じゃないので分かりませんけれども、本人がそういうことを言うんであれば、そのままを申し上げているだけであって。
清水 それで、もしそういう話があったら、あなたは管理者なんだから、門前に出て来て、敷地に入ったら困るよだとか、従業員が出勤するのに、それを進行を妨害するようなことがあったら困るよと、それはやめてくださいねと、いう注意や警告をするのが順番ですよね。
K …
清水 と思いませんか。
K できれば関わりたくないので。
(第4回審問証言速記録第1冊 28頁4行目~)
清水 そういうことを、あなたが出て来て注意をしたり、監視をしたり、そういうことはしたことはないですかね。それは間違いないですよね。
K はい。
(第4回審問証言速記録第1冊 28頁下から1行目~)
- 被申立人は、当該事情聴取においてビラの回収を指示したことを認めた。(第4回審問証言速記録第1冊 29頁14行目~ K証言「(清水 いや、回収をだから指示したんでしょ、あなたが。)…そうですね。」)
ビラまきの態様を問題にしているのであればビラを受け取った従業員からビラを回収する理由はなく、違法なビラの回収である。
- 与えた影響について
被申立人の当該行為が職場にどのような影響を与えるかについて、Kが全く理解せずに行っていたことは、審問における以下のやり取りから明らかである。
審査委員長 こういう事情聴取を、組合員ではない従業員の方皆にお願いをしたら、どういうふうに組合に対する印象を持つかということは考えませんでしたか。
K …印象。
審査委員長 なぜそんなことを聞くんだと、関係ない従業員さんは。会社が、リーダーが。
K …
審査委員長 そういうことを考えた上でやったわけではない。
K 深くは、そこまで深くは実際考えてはおりませんでした。
- 小括
よって、令和5年1月9日に被申立人従業員が申立人のビラ配布に係る事情聴取を従業員に対して行ったことは、労働組合法第7条第3号支配介入に該当する。
- 被申立人が申立人宛て同年2月6日付け回答書により申立人が事情聴取の事実を把握した経緯について説明を求めたことは、支配介入である。
- (ア)で記した通り、事情聴取自体が不当労働行為である。しかもそれはA組合員には秘匿・排除して、全員を集めて、あるいは個別に行うという差別処遇であった。
- 被申立人は、事情聴取の事実が従業員の報告により申立人に発覚すると、組合員に報告した従業員がいたことを問題としたのである。そして申立人に対して、把握した経緯について説明を求めたのである。
- これは申立人組合員に情報提供すること、ひいては会話をすることを抑止する効果をもたらすものであり、組合員を他の従業員と分断するものである。
- 小括
よって、被申立人が申立人宛て同年2月6日付け回答書により申立人が事情聴取の事実を把握した経緯について説明を求めたことは、労働組合法第7条第3号の支配介入である。
(4)申立人が賠償反則金の賃金控除に関する労使協定の無効を主張したことに対して、被申立人が令和5年2月6日付け回答書により返金対応した場合適正な損害賠償を請求する旨回答したこと。
- 被申立人の回答は、申立人の要求に対して不利益で対応する、しかもそのやり方は、周知されていなかった労使協定を組合員だけ差別的に適用除外するという脅しであり、他の従業員に組合員になると不利益な取り扱いを受けるとの印象を与えた。
- 被申立人は、申立人がA組合員の加入通告を2022年11月18日に行うと、A組合員の点検作業のビデオ撮影、就業規則の違法な改定、就業規則の開示拒否、ビラまきに対する事情聴取とビラの回収など申立人組合を敵視する支配介入を続けており、この中で返金対応した場合適正な損害賠償を請求するとの回答を行っている。
- よって、申立人が賠償反則金の賃金控除に関する労使協定の無効を主張したことに対して、被申立人が令和5年2月6日付け回答書により返金対応した場合適正な損害賠償を請求するとしたことは労働組合法第7条第3号に該当する。
3 不利益取扱い及び支配介入
(1)次のア及びイの行為は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか。
ア 被申立人が、申立人組合員A組合員 及びB組合員に対して、次の(ア)及び(イ)の事項を理由として、懲戒処分の審査を開始し、令和5年3月24日付けで自宅待機命令を発したこと。
(ア)令和5年3月7日に、申立人組合員Aが被申立入従業員に対してLINEでメッセージを送付したこと。
(イ)申立人組合員B組合員が、就業中に他従業員に「雇用契約をするな」等と述べたこと。
(あ)(イ)が懲戒事由として妥当性を有していないこと
(ⅰ)懲戒に該当しなかった事実
被申立人は2023年7月27日付で「懲戒処分通知書」(訓戒)をB組合員に交付したが、ここに(イ)の当該行為は記載されておらず懲戒事項に該当しなかった。
(ⅱ)不当な懲戒嫌疑
そもそもB組合員がF氏に対して「雇用契約をするな」と述べた行為は懲戒の嫌疑を受けるようなものではなかった。
清水 これ自宅待機命令にして懲戒審査に付してますよね。
K はい。
清水 この事実は、懲戒規定に当たると。そう判断したわけですよね。
K そうでしょうね、はい。
清水 そのときに就業時間中の労働組合活動ということで、考えたのか、そうではないのか、どっちですか。
K 私は時間中だと思いましたよ。
清水 労働組合活動だと思ったんですか。
K はい。
(第4回審問速記録第1冊 31頁下から9行目~)
清水 このときは、どういうふうにFさんに話したんですかね。
B組合員 有期雇用だから、無期から有期になっているから判子押さないほうがいいよって言っただけですね。
清水 Fさんとはどのタイミングで話したんですか。
B組合員 休憩室の外にたまたまいたんで、そのときに話しました。
清水 知ってるっていう感じで。
B組合員 そう、そうです。
清水 自分も知らなかったんだよっていう感じですかね。
B組合員 そうですね。
清水 それは、組合に加入して、一緒にやりましょうっていう話はしたんですか。.
B組合員 してないです。
(第2回審問証言速記録第1冊 4頁下から15行目~)
(ⅲ)小括
被申立人が、当該行為をもって、懲戒処分の審査にかけること自体が合理性も社会的正当性ももたない。しかも問題とされた行為が「就業時間中の組合活動」のでっち上げであった。悪質な不当労働行為であり、労働組合法第7条第3号に該当する。
(い)(ア)が懲戒事由として妥当性を有していないこと
(ⅰ)懲戒処分には当たらないという結論について
被申立人は、A組合員に対して、(ア)の当該行為での懲戒処分を発令できない。B組合員に対して発令できなかったのと同様に、佐々木法律事務所の調査結果(意見)によると処分はできないという結果と推認される。被申立人は、調査結果(意見)の開示を拒否している(甲113)。また、被申立人が結果をみて判断するとしていた刑事告訴は不起訴が決定した(甲114)。
A組合員がラインでメッセージを送付した行為は「侮辱・名誉毀損」に該当しない(後述)。
(ⅱ)グループラインのID利用した個別メッセージは禁止事項ではない
グループラインのメンバーへの個別メッセージの送付は禁止されていなかった。被申立人は自ら従業員の個人用スマホを業務連絡用に使用することを強制して、グループラインへの登録も行い、このグループラインでの業務連絡を行っていた。そしてこのグループラインの利用のマニュアルやルールも作らなかった。業務中のラインの受信を禁じることもなく、自ら業務中に業務用のラインメッセージを運転手に送付していた。(第4回審問証言速記録第1冊 33頁下から3行目~)
従業員はグループラインに登録されたID情報を使って従業員間で個別にメッセージのやり取りを行っており、それが問題にされたことはない。(第1回審問証言速記録第1冊 31頁下から17行目~、37頁5行目~)
(う)自宅待機命令の不利益性
「自宅待機命令書」において、60日に及ぶ自宅待機命令期間中、「本人の責めに帰すべき嫌疑により」、A組合員は賃金は無給、B組合員は6割の支給と通告した(甲22、23号証)。また、2名とも2023年3月27日から同年5月25日までの60日間就業を禁止され、「職務権限の停止」、事業所への立ち入り禁止、「当社従業員、処罰対象者、取引先、顧客等と一切の接触」禁止を命令され、「上記命令に違反された場合には、当社は、業務命令違反として厳重に処分し、損害が発生した場合は損害賠償及び原状回復を請求」するとして脅迫された(甲22、23号証)。これらは不利益取扱いである。またこれを見せしめとすることで組合員と他の従業員との間に強烈な分断を持ち込んだ。
(え)手続きが違法かつずさんであること
(ⅰ)根拠規定たる就業規則の周知義務を果たしていないこと
被申立人は、申立人からA組合員の加入通告と要求書の送付を2022年11月18日に受けて、就業規則の交付も求められていた。しかるに、同年11月28日に周知をすることなく就業規則の懲戒規定を違法に改定した。そしてその周知されることのなかった懲戒規定をもって、2名を懲戒審査にかけるとして、自宅待機命令を発した。違法で、悪質、詐欺的なやり方である。
(ⅱ)違法な賃金の減額を通告したこと
被申立人は、自宅待機命令書で、A組合員は賃金は無給、B組合員は6割の支給と通告した(甲22、23号証)。これらは、懲戒審査と称して、実質的な出勤停止の懲戒処分に処するものであり、違法であり、パワハラである。これに対して、申立人は違法処分の撤回・命令の是正を要求し、組合の団結権侵害を弾劾して、2023年3月27日に抗議の申入れを行って、是正をさせた。
(ⅲ)自宅待機期間の記載間違え
被申立人は、A組合員に対しては自宅待機命令書を内容証明郵便にて送付しておきながら、命令の期間を2023年と記載すべきところを2022年と間違えて記載した。被申立人は、作成したKが、佐藤賢一社長、狩野昭一会長、朝妻代理人に確認して被申立人に交付したとするが、ありえない。
(ⅳ)適正な手続きなしの自宅待機命令
被申立人は、自宅待機命令において、懲戒審査に付すと通告しながら、自宅待機命令、及び懲戒規定を示さなかった。またA組合員とB組合員に対して、被申立人は、懲戒の嫌疑をかけた事実について、事前に何らの事情聴取も行わないなど、適正な手続きを行っていない。
(ⅴ)見せしめの自宅待機命令
被申立人は、自宅待機命令の目的を、「証拠隠滅」「口裏合わせ」の防止としたが、F氏の証言確保、ラインの証拠確保がすでに完了しており、証拠や口裏合わせの現実性は高くない。2ヵ月という期間の長さ、賃金の不支給並びに減額という不利益を命令することからすると、常識的に相当な慎重な対応が求められるはずである。しかしながら被申立人は慎重な対応どころか、ずさん極まる処遇を行い、なおかつ、自宅待機命令は違法な実質的懲戒処分であった。
また、被申立人は、2名に対する自宅待機命令書を高崎営業所掲示板に不当に掲示し続けた。しかも、申立人の抗議によって是正された賃金部分など、修正することなく自宅待機命令が終わるまで掲示し続けたのである。このように自宅待機命令は他の従業員に対する見せしめであった。
(か)結論
よって、被申立人が、(ア)と(イ)をもってA組合員とB組合員を懲戒の審査に付し、自宅待機命令を発出したことは、労働組合法第7条第1号不利益取扱い及び労働組合法第7条第3号支配介入に該当する。
イ 令和5年5月19日付けで被申立人高崎営業所長Kが、申立人組合員A組合員 に対して侮辱・名誉毀損による損害賠償請求訴訟を提起したこと並びに被申立人及び同高崎営業所長Kが、侮辱罪・名誉段損罪で申立人組合員A組合員治失を刑事告訴したこと。
(あ)基本的視点
(ⅰ)3つの事案の概要
Kによって、侮辱・名誉毀損行為として損害賠償請求の提訴をされた行為、及び刑事告訴された行為は、A組合員のラインのメッセージの送付行為であり、同一行為である。このA組合員のラインのメッセージ送付は申立人が労働組合として行った正当な労働組合活動である。
Kは、被申立人において、会社を代表する者ではないが、執行役員である。被申立人における決定権はないにしても、執行役員として被申立人の決定事項に深く関与している。むしろ、高崎営業所長として、本件申立事件に関して直接の当事者であり、申立人組合に関するすべての事案の発議・発案者である。
KのA組合員に対する損害賠償請求提訴と刑事告訴は、不当労働行為意思のもとに行われた。
また被申立人によるA組合員に対する刑事告訴は、威力業務妨害事件として告訴されたものであることが明らかになった。これはすでに不起訴処分が決定している(甲114)。
いずれも被申立人及びKの正当な労働組合活動に対する訴訟する権利の濫用であり、不当労働行為である。
(ⅱ)侮辱・名誉毀損での提訴に関する事件の労働委員会命令について
Kによる損害賠償請求提訴と刑事告訴の内容は、損害賠償請求裁判における原告訴えに具体的に示されているので、これを詳しく見る。類似事件の労働委員会命令があるので、これに照らし合わせてKの損害賠償請求裁判が不当労働行為であることを明らかにする。なお、KによるA組合員に対する名誉棄損での刑事告訴は不起訴決定が下りている(甲114)。
使用者が労働者を名誉棄損で損害賠償請求訴訟を提起したことが不当労働行為にあたると労働組合が救済を申し立てた事件について、大阪府労働委員会は以下のように使用者の不当労働行為を認定した。(大阪府労委令和2年(不)第27号不当労働行為審査事件)
「本件訴訟の提起について、組合は、法人が本件訴訟を提起したことは、訴訟する権利の濫用であり、正当な組合活動に対する支配介入である旨主張し、法人は、裁判を受ける権利に基づく被害回復のための正当なものであり、不当労働行為に該当するものではない旨主張する。
憲法第32条によれば、何人も民事事件において裁判所に訴えを提起する権利は否定されないものであるから、法人が、損害賠償の訴えを提起することもまた、権利の行使として尊重されるべきであり、労働委員会が公的判断をもってこれを制限することは慎重であるべきである。
しかしながら、この権利といえども無制限に保障されたものではなく、憲法第28条において、いわゆる労働三権が保障され、労働組合法において不当労働行為救済申立ての制度が設けられている趣旨からして一定の制約に服すべきこともあり得るのであって、例えば、権利の濫用に当たるなど、特段の事情がある場合は、不当労働行為に該当する余地があるというべきである。
そこで、法人が本件訴訟を提起した趣旨・目的、提訴の態様、時期及び組合活動に与える影響を具体的に検討し、訴えを提起する権利の保障も考慮した上で、法人が本件訴訟を提起したことが、労働組合法の観点から不当労働行為に当たるかを総合的に判断することとする。」
「…組合活動への影響をみると、被告とされた本件組合関係者3名の組合活動に支障を生じさせるのみならず、他の組合員にとっても組合活動を委縮させるものであることからすると、本件組合関係者3名を被告として、本件訴訟を提起したことは、法人が裁判所に訴えを提起する権利があり、労働委員会がその判断をもってこれを制限することには慎重であるべきことを考慮してもなお、組合活動に対する不当な介入に当たるとすべき特段の事情があるといわざるを得ず、労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である。」
(https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m12234.html)
この命令を参考として、Kが本件訴訟を提起した趣旨・目的、提訴の態様、時期及び組合活動に与える影響を具体的に検討し、被申立人とKの不当労働行為であることを示す。
(い)A組合員が他の従業員にラインでメッセージを送付した行為は正当な労働組合活動であり、Kの損害賠償請求提訴並びに刑事告訴は訴訟する権利の濫用である
(ⅰ)メッセージの内容の正当性について
- A組合員が他の従業員にラインで送付した内容について
Kを原告とし、A組合員を被告とする「侮辱・名誉毀損」に対する損害賠償を請求する訴訟で、原告が問題にしているのは、ラインで送付された以下の文章である。
(1)「冗談ではありません。このような詐欺の手口で正社員を1年契約社員に変更することは法律で禁止されています。」
(2)「上州貨物自動車の仲間のみなさん。K所長にだまされてはいけません。1年の有期雇用契約に署名なつ印してしまえば、いつ解雇されるかわかりません。あのウソつきで、ワンマンでやりたい放題のK所長の奴隷にされてしまいます。」
(3)「群馬合同労組はK所長のC組合員に対する差別や嫌がらせを群馬県労働委員会に訴えて、これから調査と証人尋問が始まります。」
(4)「まずいことはウソと脅しで押さえつけて来たやり方はもう通用しません。」
- 「詐欺の手口」の表現が事実に基づいていること
2023年2月18日、申立人は要求書を被申立人に送付して以下の通り要求して、Kと被申立人の行為が「詐欺的な行為」であるとして、謝罪と是正を求めた事実がある。これに対して、さらに不誠実な対応を行ったのがKと被申立人であり、「詐欺の手口」との表現には理由がある。
1②「『A組合員 との2022年3月26日付雇用契約書』について、第1回団体交渉にて『個別にご説明をさせていただいてご了解いただいたという前提で、変えさせていただいた』と発言したのはK(以下「K」と記載)所長である。2022年3月25日のK所長とA組合員 の雇用契約書締結時の録音ファイルを文字起こししたものを証拠として添付する。契約期間を『期間の定めなし』から1年の有期に変更することは一言の説明もない。第1回団体交渉での説明したとの発言は嘘でしたと、まずは謝罪されたい。」
1③「無期の雇用契約から有期の雇用契約への変更を行うことは、労働条件の重大な不利益変更にあたる。不利益変更には、自由意思に基づいた合意が必要である。つまり前提として、使用者からの十分な説明・情報提供が必要である(労働契約法4条1項)。貴社の一方的な不利益変更は詐欺的な行為であり、許されない。あらためて全従業員の雇用について、謝罪の上、2022年度の雇用契約書を訂正し、『期間の定めなし』を確認されたい。」(甲15号証)
さらにまた、使用者からの十分な説明・情報提供がないどころか、全く説明がなく、従業員が変更を認識してもいなかったことは後述する。
- 「K所長にだまされてはいけません」「ウソつきで、ワンマンでやりたい放題のK所長」「差別や嫌がらせ」「ウソと脅しで押さえつけて来たやり方」等の表現が事実に基づいていること
証人尋問を通して、これらの表現が根拠のあることが審問で明らかになった。
A組合員 はい、そうです。私の担当車のですね、スペアタイヤがパンク、以前にしまして、そのタイヤが修理ができたよっていうことで、事務所の管理者のですね、Dリーダーの方から話がありまして、「今積むんだったらタイヤを車まで持っていってあげるよ」っていうふうにDリーダーから言われて、Dリーダーの立会いのもと、その作業をしました。で、その作業が終わった時点で、点呼に行きました。点呼に行くと、もう私が行った途端にKさんの方から、今何をやってたんだと、点呼前に作業はするなということで以前にも注意はしてるよね、明日から出庫、出勤の10分前以前は敷地内に入るなという命令がその場で出ました。何か狙ってたような感じでしたね。そういうふうな理不尽な命令が出ました。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 4頁7行目~)
A組合員 …23日から1回目のビデオ撮影が始まりましたけれども、撮影者は初めKさんでした。事前に何のために撮るかという説明も一切ありませんでした。私は、組合加入通知を18日に出しておりましたので、これは私に対しての嫌がらせと、他の社員に対しての見せしめだなと思いました。
(A組合員 第1回審問 証言速記録(第1冊) 5頁16行目~
清水 甲40号証を示します。これはビデオ撮影が開始される前の2ヶ月の点呼と出社の、出庫の時間、点検を含む準備時間の一覧表ということでよろしいですか。
A組合員 はい、そうです。
清水 点検時間に10分以上かかっていた日はないということでよろしいですかね。
A組合員 はい、そうです。
清水 これも、あなたはそれまでに点検時間が長過ぎるよと、10分を超えているよというふうに言われたことがありましたか。
A組合員 いえ、ありません。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 6頁12行目~)
清水 それ(※雇用規約期間の変更)に気づいたきっかけは何ですか。
A組合員 はい。組合の打合せ中に、清水委員長の方から指摘されて初めて気が付きました。
清水 まさかそんなことになっているとは思っていなかったということでよろしいですか。
A組合員 はい、全然気が付きませんでした。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 7頁下から14行目~)
清水 そのとき(※高崎労働基準監督署へ就業規則の閲覧に行った時)、あなたは自宅待機命令を受けて、懲戒規定の関連部分を会社から、コピーを組合に提出されたものを持参したんでしょうか。
A組合員 はい、持って行きました。
清水 これ改ざんされてると、変わっているということを突き止めるのは大変なことだったと思いますかね。
A組合員 はい、思います。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 10頁14行目~)
A組合員 …そうです。1人で作業を始めてすぐのことですね。
清水 そうですよね。だから独り立ちしたけども、よく分かってない状況だったということですよね。
A組合員 はい、そうです。これに関わった原因っていうのは、メーカーの方の我々に関係ないところのバルブが閉まっていて、通常の送液ではありえないことが起きていたことに気が付かなかったということですね、通常どおりであれば、送れていたのに、向こうのメーカー側の方の不手際で、そういうふうにできないようになっていたということで、起きた事故です。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 27頁下から12行目~)
清水 それから、先ほど乙9号証のミラーをこすったという事故の件ですけれども、そのぐらいでは普通は事故として報告しなくても大丈夫だよというふうに言われたということですよね。
A組合員 はい、そうです。
清水 それはベテランの先輩から、そのぐらいは、うちの基準では大丈夫だっていうふうにみんな思ってるよっていうふうにアドバイスを受けたということでよろしいですか。
A組合員 はい、そうです。それに、その先輩から言われて、俺が言ったのに何で申請してるんだよ、なんていうことで、またね、違うように誤解されても、困ったので、そういうふうに言われてるんであれば、とりあえず先輩の言うことを信用して、顔を立てようということもありました。
清水 そのときの事故の発見については、Kさんから指摘をされたということで間違いないですかね。
A組合員 はい、そうです。
清水 何で黙ってんだっていうふうに、いきなり言われたということで。
A組合員 はい、そうです。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 28頁16行目~)
清水 …反対尋問で、甲77、78、79号証の…スマホ、スマホの件ですかね。それで、メール、LINEのアカウントですかね。これについて、だから、例えば、個別にね、連絡を取りたいという状況もありますよね。
A組合員 はい。
清水 その場合には、そのアカウントで誰々さんに、この件についてちょっと教えてくださいとか、そういう連絡をとることは今までもありましたかね。
A組合員 はい、ありました。
清水 そういう形で、そのときに会社の了解、確認、了解を取っていますか。
A組合員 いえ、取ってないです。みんなそれでやりとりをしてましたので。自由に使わせていただいてました。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 31頁下から17行目~)
清水 (※ビラまきで他の従業員が事情聴取をされたことに関して)なんか無理やり止めるというようなこともあったんですか。
A組合員 いや、それはありません。無理やりっていうのは、どの程度が無理やりなのか分かりませんけれども、車の前に立ってね、進行方向を防ぐだとか、そういったことは一切ありません。
(第1回審問 証言速記録(第1冊) 39頁5行目~)
清水 それについてどういうふうに思いましたか。
B組合員 何でA組合員さんだけするんだろうっては、思っていました。
清水 組合に入ったからやられてるというふうに思いましたか。
B組合員 思いました。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 1頁5行目~)
清水 2020年、2020年度の、その減点の項目で何か書いてありましたか。
B組合員 う一んと、延着して、減点されました。
清水 それは今日分かったわけですかね。
B組合員 そうです。
清水 その延着っていうのは心当たりがありますか。
B組合員 延着は心当たりがあります。
清水 それは、どういう。
B組合員 それはトラックが故障して、行けなくなった、動かなくなったので、延着しました。
清水 トラックの故障に、B組合員さんの責任はありますかね。
B組合員 ないです。
清水 走っている途中で故障して、動かなくなった。
B組合員 そうです。
清水 それで間に合わなかったと。それが、延着ということで、人事評価のマイナスの理由になっていたということでよろしいですか。
B組合員 そうです。はい。
清水 それを今日初めて知ったんですかね。
B組合員 初めて知りました。
清水 それについて、B組合員さんこういうことがあったから減点で、年俸減額しますよという説明を受けたことはないわけですかね。
B組合員 う一んと、延着したよね、で、減額したと思います。
清水 言われたことはあるんですか。
B組合員 延着したよね、とは言われました。
清水 そのとき、それは自分の責任じゃないよねっていう話はしませんでしたか。
B組合員 そのときは、自分は言わなかったんですけど。
清水 そのときは何で言わなかったんですか。
B組合員 いや言えなかったですね、もう。言ったら、何されるかちょっと分かんないんで。
清水 毎年そんな感じですかね。
B組合員 毎年そうです。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 2頁下から13行目~)
清水 それから、他にも特記ミスっていう欄に何か書いてありましたかね。
B組合員 …う一んと…
清水 予備車。
B組合員 あ、予備車、乗り捨て、不衛生とか何か、はい。
清水 それは何のことか、心当たりありますかね。
B組合員 自分はちょっと分からないです。
清水 車両の不衛生って書いてありましたか。
B組合員 書いてありました。
清水 詳しいことは会社は分からない、今現在分からないという回答でしたかね。
B組合員 はい。
清水 この減額、年俸を減額するという規定について何か説明を受けたことはありますか。
B組合員 特にないです。
清水 就業規則だとか賃金規程にも、そのような具体的な規定はないですね。
B組合員 ないです。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 3頁下から18行目~)
清水 それからKさんについて聞きますけれども、挨拶もしないことが多いんですかね。
B組合員 あります。はい。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 3頁下から2行目~)
清水 2022年3月に作った雇用契約書が、1年の有期雇用になっていましたかね。
B組合員 はい。
清水 それはどうして知ったんですか。
B組合員 それはA組合員さんから聞いて、初めて、知りました。
清水 それまで気付かなかったわけですよね。
B組合員 はい。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 4頁2行目~)
清水 会社は、B組合員さんに、事故や不適合案件が多いというふうに主張されてるようですけれども、それはどうでしょうかね。
B組合員 特に多いとは思いません。
清水 先ほど今日の団体交渉で分かったように、車両の故障で延着した、それも不適合案件にされているということでしょうか。
B組合員 だと思います。
清水 あと、不衛生とかね、そういうことも書いてありましたかね。
B組合員 はい。
清水 何をいわれてるかは分かりますかね。
B組合員 何を…
清水 そのだから、不衛生だとか。
B組合員 何をいわれているのかは分からないですね、それは。
清水 あと、鉛筆、事務所の鉛筆を、自分の車に持ってっちゃったら、問題にされた人がいるんですか。
B組合員 はい。知ってます。
清水 それは皆知ってる話なんですかね。
B組合員 皆知っていると思います。
清水 あと、Kさんが奥さんを同乗させて北海道に配送に行ったっていうのも知ってますか。
B組合員 知ってます。
清水 それは皆知ってるんですかね。
B組合員 皆知ってると思います。
清水 どんな感じで行っちゃったんですか。
B組合員 自分は、見たんですけど、私服で行ってました。
清水 私服で。
B組合員 はい。
清水 就業規則で会社が許可した者以外の同乗、家族やね、禁じるっていうふうにはなっていませんかね。
B組合員 なっていると思います。
清水 何かそれで処分されるとかってないですかね、Kさんが。
B組合員 してないと思います。
清水 本日、いろいろ、訓戒の処分件数っていうのは聞いたけど、そういう話は入ってなかったですよね。
B組合員 はい。
清水 それからHっていう、お客さんの配送を、Kさんが手配しなかったということがありましたか。
B組合員 ありました。
清水 それは、翌日、B組合員さんが行って謝ったということですか。
B組合員 そうです。自分が翌日行ってお客さんに謝ってきました。
清水 それもKさんは処分されてないようですよね。
B組合員 してないと思います。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 5頁下から5行目~)
審査委員長 キャブを開けないで10分ぐらいの点検で、十分なんですかね。
B組合員 いや、本当はキャブしてベルトとかの緩みがないとか、本当は見なくちゃいけないと思うんですけど。そういう指摘がなかったんで、それでいいかなって皆たぶん思ってると思うんですよね。
審査委員長 会社の方に、これじゃちょっと心配だから、キャブを開けて点検させてもらってもいいですかといった申出をしたことはありますか。
B組合員 そう言える状況じゃないですね。
審査委員長 なぜ。
B組合員 何されるか分からないっていうのもあるし。
審査委員長 何されるか分からない。
B組合員 A組合員さんとかの例もあるし、見てるし。10分前に入ってくんなだとか、何か言い掛かりつけてくるんで。そこはちょっとものを言えないです。
審査委員長 実際にA組合員さん以外で、B組合員さん御自身、あるいは他の従業員の方で、何か言い掛かり的なものを会社から言われたというのは聞いたことがありますか。
B組合員 さっきもありましたけど、休憩所にあった鉛筆を自分のトラックに置いといたと。それを横領だと言って、始末書を書いた人がいるんです。
審査委員長 それは横領だって言った人は誰ですか。
B組合員 Kさんです。
(第2回審問 証言速記録(第1冊) 4頁2行目~)
清水 2022年、有期雇用に変更されていたっていうのは知っていましたか。
C組合員 いえ、よく分かりませんでした。
清水 誰から聞いて知りましたか。
C組合員 おそらくA組合員さんから聞いたんだとは思います。
清水 面談のときにその説明を受けた記憶はないですね。
C組合員 はい。
(第2回審問 証言速記録(第2冊) 9頁下から15行目~)
清水 その中で、C組合員さんの減点項目で、どういうのがあったか覚えていますか。
C組合員 車両の不衛生と車両投げ捨てと書いてありました。
清水 今日の団体交渉でも、具体的な何を指してるのか、会社もわからないということで回答いただいてませんけれども、車両の不衛生と書いてありましたね。
C組合員 はい。
清水 あとは、洗車の不良。
C組合員 洗車不良ですか。はい。
清水 それで減点されてるっていう事実がありますかね。
C組合員 そうですね。はい。
清水 それで1%、2%の減給になっているということでよろしいですかね。
C組合員 はい。
清水 そもそも、減給、年俸制だから減給するよというのは、就業規則や賃金規程に、書いてありますか。
C組合員 いえ、ないです。
清水 ないですね。この項目ですね、人事考課をもとにして減給するよと、この項目については、こういうことですからねという説明はありましたか。
C組合員 特には、なかったと思います。
(第2回審問 証言速記録(第2冊) 10頁1行目~)
清水 会社の評価は結局、直接の管理者、Kさんが書いたものに会社がそれを変更した事実があったかどうか。
C組合員 なかったのかなあと思いますけど。
清水 なかったですよね。そういうことを今日の団体交渉で初めて知ったということでよろしいですか。
C組合員 はい。
(第2回審問 証言速記録(第2冊) 10頁下から8行目~)
朝妻 はい、分かりました。それから、甲100号証の2ぺ一ジ目を示します。これの十五行目、K氏の気に入らない社員に対して、から始まる文章がありますね。ここにK氏の気に入らない社員に対して嫌がらせのようなことをしたり、年俸制の査定を低くして賃金のカットを行ったり不平等な扱いしてるのを見て、誰も意見や不満を言えないような職揚環境にしていると思います、と書かれてますね。
C組合員 はい。
朝妻 ここに書いてある嫌がらせのようなことっていうのは具体的にどんなことですか。
C組合員 A組合員さんの件もありますけど、先ほどの鉛筆を車の中に入れて、始末書じゃないですけど、なんか書かされたっていうようなことですかね。
朝妻 程度の問題は別として、会社の備品を無断で外に持ち出すことというのは、許可されてましたか。
C組合員 許可はされてないかなあ。
朝妻 はい。分かりました。あとはA組合員さんの件と、具体的にA組合員さんのどういった件ですか。
C組合員 ビデオ撮影したっていうのと、あと10分前には敷地内に入るなというのと、あと長距離ですかね、普段皆さん、近揚をやったり長距離をやったりがあるんですけど毎回毎回ずっと、遠い、長距離の仕事を与えられていたことですかね。
(第2回審問 証言速記録(第2冊) 21頁9行目~)
審査委員長 陳述書で、群馬合同労組に加入したのは、さっきの労働条件の問題とA組合員さんへの嫌がらせが理由です。私も嫌がらせを受けると思いましたとありますが、これはどうしてですか。
C組合員 どうして…そういう人なんだと認識してたんで。
審査委員長 A組合員さんが組合員であるから、そういう何かいろいろな会社からの要求とか注文が来て、嫌がらせがあるのかなと思っていたわけですか。
C組合員 両方だと思います。個人的にもあれだし、その組合員だっていうのも、両方あるんじゃないかな。
審査委員長 組合とか関係なくても何か個人的にA組合員さんが少し会社から、よく思われていないとか、そういうのはあったわけですか。
C組合員 会社からというか、Kさんからですかね。
審査委員長 Kさんから。私も嫌がらせを受けると思いましたとありますが、C組合員さんが加入後、何か会社からあるいはKさんから嫌がらせみたいなことは受けましたか。
C組合員 直接的な嫌がらせという形はないですけども、やはり、私が思うには給料の減額ですかね。査定を低く取られたんじゃないかなと私は思ってます。」
第2回審問 証言速記録(第2冊) 28頁4行目~)
- 公共の利害に関するメッセージであること
①のラインのメッセージは、以下のように、被申立人の違法な労働条件の不利益変更に対して警告し、注意喚起することを目的としていた。すなわち、労働組合として、組合員以外の従業員に対して、正社員としての地位と権利を守るために行った、公共の利害に関するメッセージに他ならない。
「会社(K高崎営業所長)はこの3月に従業員と個別の面談を行って、正社員の雇用契約を1年契約の非正規雇用に不利益変更しようとしています。
一度署名してハンコを押してしまうと取り返しがつきません。仲間のみなさんが、断固として署名とハンコを拒否するように呼びかけます!」
(甲77、78、79)
(ⅱ)メッセージの送付先について
- 公然性の欠如
本件個別メッセージは、被申立人高崎営業所に所属する運転手のグループラインとは異なり、個別の通信に過ぎず、公然性はなく、「流布」にも当たらない。
- 本件個別メッセージの送信目的の記載があること
A組合員が絞り込んで本件個別メッセージを送付した相手は、当該メッセージの記述内容に直接関係するであろう者に限られていた。
また本件個別メッセージは、申立人組合の分会の結成を知らせ、不利益変更に対して組合に加入して、自らの地位と権利を守ろうと呼びかける目的でなされた。
(ⅲ)提訴の態様について
本件のラインで送付された文書の内容は、申立人が組合ブログで2023年3月7日に公開したものである。また送付の目的は、申立人組合の分会の結成を知らせ、不利益変更に対して組合に加入して地位と権利を守ろうと呼びかけることであった。
Kと朝妻代理人が、侮辱・名誉毀損を問題にするのであれば、申立人組合のブログ掲載を侮辱・名誉棄損で提訴するのが筋であろう。
しかしながら、Kと朝妻代理人はA組合員個人のライン送付行為だけを損害賠償請求提訴を行い、KはA組合員個人のライン送付行為だけを刑事告訴した。
これらは、申立人を提訴ないし刑事告訴すれば正当な組合活動に対する不当労働行為となることが明らかである中で、申立人分会の中心であるA組合員に個別に打撃を与え、あわよくば退職に追い込もうとの思惑から、これら提訴が行われたことは明らかである。
(ⅳ)本件訴訟を提起した時期について
Kが侮辱・名誉殿損による損害賠償請求訴訟を提起したのは2023年5月19日、被申立人及びKが申立人組合員Aを刑事告訴したのも同時期である。K及び被申立人は、2023年3月27日付で出した2カ月の自宅待機命令が終わる2023年5月25日を前にしてこれら提訴と刑事告訴を行った。また2023年6月12日に第3回団体交渉の場で、被申立人の就業規則の違法な改定が露見する前であった。
Kと被申立人が違法なやり方で何が何でもA組合員とB組合員を被申立人会社から排除する目的でこれら提訴と刑事告訴を行ったことは明らかである。
(ⅴ)組合活動に与える影響について
A組合員は組合活動を行ったことを理由に損害賠償請求訴訟の被告とされ、刑事告訴されたといえる。そして、これらは、心理的にも又経済的にも負担となることが明らかである。Kが訴訟を提起したこと、被申立人とKが刑事告訴したことにより、A組合員の組合活動に支障が生じるのみならず、他の組合員にとっても組合活動を委縮させるものである。
(う)小括
よって、令和5年5月19日付けで被申立人高崎営業所長Kが、申立人組合員Aに対して侮辱・名誉殿損による損害賠償請求訴訟を提起したこと並びに、侮辱罪・名誉段損罪で申立人組合員Aを刑事告訴したことは、労働組合法第7条第1号不利益取扱い及び労働組合法第7条第3号支配介入に該当する。
(え)被申立人によるA組合員の業務妨害による刑事告訴について
審問を通して、被申立人がA組合員を刑事告訴した内容は、威力業務妨害行為であったこと、自宅待機命令に対する2023年3月27日の抗議・申入れ行動の事案であることが明らかになった。(第4回審問証言速記録第1冊 49頁3行目~)。
これに関して、前橋地方検察庁高崎支部が不起訴決定を出したことが明らかになっている(甲114)。
この件について、大阪府労委の命令に照らし合わせて「本件訴訟を提起した趣旨・目的、提訴の態様、時期及び組合活動に与える影響を具体的に検討し、訴えを提起する権利の保障も考慮した上で、法人が本件訴訟を提起したことが、労働組合法の観点から不当労働行為に当たるかを総合的に判断する」必要がある。
この日の抗議・申入れ行動が正当な労働組合活動であることに関しては、B組合員に対する懲戒処分が不利益取扱いである項と重なるので、4(2)(う)で述べる。
刑事告訴の態様については、被申立人が主張する業務妨害が事実であるならば、申立人委員長であり、抗議と申入れを直接に行った清水彰二を告訴するのが筋である。ところが、被申立人はA組合員だけを刑事告訴した。明らかに不自然であり、バランスを欠いている。組合分会の柱であるA組合員を刑事告訴により、打撃を与え、分会組合員を委縮させようとしたのである。
時期についても、Kが侮辱・名誉段損でA組合員を刑事告訴・損害賠償請求提訴をしたのと同時期である。K及び被申立人は、2023年3月27日付で出した2カ月の自宅待機命令が終わる2023年5月25日を前にしてこれら提訴と刑事告訴を行った。また2023年6月12日に第3回団体交渉の場で被申立人の就業規則の懲戒規定が違法に改定されたことが露見する前であった。
組合活動に与える影響としては、雇用主である会社から刑事告訴されたことにより、A組合員は心理的にも経済的にも大きな負担と打撃を受けた。A組合員の組合活動に支障が生じるのみならず、他の組合員にとっても組合活動を委縮させるものである。
刑事告訴についてKは審問で以下の通り語った。申立人に対して偏見を持ってあたったことは明らかである。
清水 あと、なんかさっき公安委員会に話をしに行ったと話してましたけど、そのときはどういうふうに相談して、公安委員会から何か話があったんですか。
K まず、ビラを持って行って、当時の状況等を覚えている限り、話をさせていただいて、ビラを見たときに、ちょっと事件性あるよねって言われたんですよ。ちょっと警察の方に相談した方がいいのかなということで、そのまま警察の方に。
清水 刑事告訴したのは、そのときにそういうふうに言われたってことも、関係するわけですか。
K それもありますよね。
清水 事件性があるというのはどういうことですか。
K 分かりません、それは。私においても。どこの内容が、どういうあれで事件性があるのか。私には全部あるとは思いましたけれど。
(第4回審問証言速記録第1冊 51頁下から12行目~)
よって、被申立人によるA組合員に対する業務妨害での刑事告訴は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い、第3号の支配介入に該当する。
(お)結論
よって、令和5年5月19日付けで被申立人高崎営業所長Kが、申立人組合員A組合員 に対して侮辱・名誉殿損による損害賠償請求訴訟を提起したこと並びに被申立人及び同高崎営業所長Kが、侮辱罪・名誉段損罪、業務妨害罪で申立人組合員A組合員治失を刑事告訴したことは、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いであり、第3号の支配介入である。
(2)次のアの行為は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱い及び同条第3号の支配介入に該当するか。また、次のイの行為は、同号の支配介入に該当するか。
ア 被申立人が、令和5年5月26日付けで、申立人組合員A及びB組合員に対して配置転換を命じたこと。
(あ)不利益取扱いであること
被申立人は、A組合員とB組合員に対して、配置転換したことによって、「特別手当」の受給を阻害して、不利益を与えた。またB組合員に対しては通勤時間が1~2分から1時間~1時間30分かかるようにして、不利益を与えた。
(い)業務上の必要がないこと
被申立人は、「A組合員及びB組合員による行為(下記4の刑事告訴及び民事訴舩の対象としている事実等)により、高崎営業所の秩序維持が困難となり、かつ同所に勤務する大多数の従業員から、同人らと共に業務ができないとの嘆願が出される事態となっていた」ために止む無く就業規則に基づき配置転換を行ったと主張する(答弁書)。
しかしながら、刑事告訴・民事訴訟の対象となった事実自体が、本件申立にあるように不当労働行為である。
被申立人が「A組合員、B組合員が高崎営業所に所属していることで業務に支障が出るという従業員の声があり、取引先からも懸念が示され、業務上配置転換する必要があった。」「申立人執行委員長清水、A組合員及びB組合員が高崎営業所事務室で行った行為は従業員を畏怖し、恐怖心を与えた違法行為である」と主張しているので、その点について以下反論する。
2023年3月27日の抗議行動・申入れ行動について、審問においてKは「びっくりしたのと、その大声でしたので、非常に、土曜日もそうだったんですけれども、非常に怯えてたのがもう目にとって分かったので、避難はしていただきました。」などといい、事務職員の女性が退職したのがこの日の抗議行動・申入れ行動が原因であるかのように証言した。
しかしながら、事務職員が申立人の抗議行動・申入れ行動への恐怖が原因で退職した事実はなく、そのような疎明もない。審問で以下の通りやり取りがあった通り、被申立人高崎営業所ではKに対する不満も含めて次々と事務員が退職していた。
清水 …事務員が退職したということに関して、最近も高崎営業所の事務員さん退職されてますよね。
K そうですね。
…
清水 A組合員さんが組合通告する前に、年俸制が導入されて、何人ぐらい事務員さんが辞めてるか分かりますか。
K …ちょっとよく覚えておりませんが。
清水 6、7人辞めてるんじゃないですかね。
K そんなにいらっしゃいますかね。
清水 私の記憶ではそのぐらいもう辞めてる、次から次へと辞めるっていう話を聞いてます。
K …
(第4回審問証言速記録第1冊 18頁1行目~)
またこの抗議行動・申入れ行動でK所長と直接やり取りし、声をあげていたのは申立人執行委員長の清水彰二であり、A組合員・B組合員は部屋から出ていて、声もあげていないのである。これについて、被申立人は「両名が高崎事務所事務室にて代理人清水殿をして従業員に対して恐怖心を与えた行為」(甲33、4頁4行目)などと、意図的に執行委員長清水彰二を「代理人」と表現して、A組合員・B組合員の責任を問うており、全く不当である。
この日の抗議行動・申入れ行動については審問での以下のやり取りにあるように、被申立人のパワハラとも言える違法不当な自宅待機命令、期間を間違えている命令に対して、これを撤回させるための正当な組合活動であった。
清水 A組合員さんに、最初、自宅待機命令を出したときは、賃金は無給だと。2ヶ月間。そういう自宅待機命令書でしたよね。
K …
清水 でしたよね。
K はい。
清水 これ問題だと思いますか。
K …問題だっていうことで弁護士先生と相談しての今に至るんじゃな.いでしょうか。
清水 それはなんで変更になったんですかね。十割支給すると。
K ちょっと問題があったからじゃないでしょうか。
清水 組合が、私たちが申入れをしたからですよね、抗議して。
K それもあるとは思います。
清水 それがなかったら変更してないですよね。
K それは分かりません。
清水 2ヶ月間、A組合員さんについては、懲戒にもならないことを懲戒事案なんてでっち上げられて、2ヶ月間、自宅待機命令。で、賃金が6割。
朝妻 異議ありです。それA組合員さんじゃなくてB組合員さん。
清水 はい、B組合員さん。それは重大なパワハラだと思いませんか。
K …でも、しょうがないんじゃないでしょうかね。
(第4回審問証言速記録第1冊 35頁15行目~)
清水 それで、2023年3月27日の申入れについて、自宅待機命令に違反するよっつうことで、懲戒まで出てますけども、これ間違ったっていうことで無効、間違ってるからこれは駄目ですよということで、3月27日に申入れに行ったんですね。騒ぎに行ったわけじゃないんですよ。業務命令が間違ってるから確認しに行ったわけですよね。
K だから、それを訂正します、差し替えさせてくださいって言ったじゃないですか、私も。お願いしたじゃないですか。でも受け取らないよって言ったじゃないですか。
清水 それはそうですよ。だって、ちゃんと手続で、佐藤社長の名前で出てるんだから、Kさんの名前でここで変えるなんて通用しないじゃないですか。
K いや、だから訂正させてくださいって私お願いしたじゃないですか。
(第4回審問証言速記録第1冊 52頁12行目~)
(う)小括
被申立人が、令和5年5月26日付けで、申立人組合員A組合員 及びB組合員に対して配置転換を命じたことは労働組合法第7条第1号に該当する。
イ 上記アの配置転換に関し、被申立人高崎営業所長Kが、被申立人従業員に陳情書を提出させたとされること。
(あ)陳情書提出についての被申立人の指示について
審問におけるC組合員の以下の証言から会社の指示は明らかである。
清水 自宅待機命令が、高崎営業所に掲げられ続けていたのは確認してますかね。
C組合員 はい。
清水 これは、二人は最後まで張り出されていましたか。
C組合員 張り出されていました。
清水 陳情書の件ですけれども、会社から指示があったというふうに思いますか。
C組合員 私個人は思います。
清水 この陳情書ですけども、4月1日から始まって、4月5日ぐらいまでの間に全部集中してますね。
C組合員 はい。
清水 4月1日頃に、一部の人たちだけ集まれという話があったという、そういう話聞いてますか。
C組合員 はい。聞いています。.
清水 誰がっていう話はちょっと、できないんでしょうけども、そういう情報は聞いてますね。
C組合員 はい。
清水 それがいつだったかというのは分かります。
C組合員 集まった日付ですか。ちょっと記憶はないです。
清水 土曜日だったという記憶はないですか。
C組合員 土曜日だったっていう記憶はあります。
(第2回審問証言速記録第2冊 12頁下から14行目~)
審査委員長 陳情書の関係なんですが、それがきっかけか、根拠かあれなんですけれども、A組合員さんとB組合員さんが、配置転換されますよね。そのもとになった1つとして、この他の従業員の方々の陳情書というのがあるんですけれども、ちょっと繰り返しになりますが、それが会社からあるいはKさんから、指示があって、この従業員の人たちが書いた、あるいはそのために集められたのは、直接は聞いていないですよね。
C組合員 直接は聞いてないです。
審査委員長 それで、それを聞いた人から、C組合員さんが直接聞いたのか。C組合員さんが聞いた人はさらに別のルートから聞いたことを、どうもそんなことがあったらしいというふうに聞いたのか。
C組合員 そうです。
審査委員長 間接的なのね。あくまでもね。
C組合員 はい。
審査委員長 名前は出せない、特定されると困るという話が出てるんですけれども、C組合員さん自身は、そのもとのそれを聞いたであろう、あるいは、その集められた中に入ったであろう人は、推測できるんですか。
C組合員 推測はできます。
審査委員長 当時、この陳情書が出たのが、2023年4月1日から何日間にわたって集中しているということなんですけれども、この頃、群馬合同労組の組合員は、会社内はA組合員さん、B組合員さん、C組合員さんの三人。この三人とほかの従業員の方々の関係って、どんな感じなんですか。
C組合員 まあ同じ運転手同士っていう感じはしますけど。
審査委員長 陳情書に、要するに組合員のいろいろやっている人が迷惑的な感じのように書いてあるんですよ。だから、そんなあんまり騒ぎするなとか、何か他の人から言われてて、会社内で皆さんと他の従業員の方で関係が何か悪化したり、ちょっと衝突があったりとか、そういうことはなかったですか。
C組合員 ないです。
(第2回審問証言速記録第2冊 31頁2行目~)
(い)小括
よって、被申立人高崎営業所長Kが、被申立人従業員に陳情書を提出させたことは事実であり、労働組合法第7条第3号に該当する。
4 不利益取扱い
次の(1)及び(2)の行為は、労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当するか。
(1)被申立人が、令和4年11月18日付け組合加入通告後に申立人組合員Aに対する残業差別を行ったとされること。
(あ) A組合員の組合加入通告以前の残業の状況
A組合員は2020年7月に被申立人と雇用契約を結び、同年9月26日付で期間の定めのない雇用契約を結んでいる(給料の締め日は毎月25日)。以来、2021年4月に39,600円(甲72-27、甲73-25)、2022年2月に2,665円(甲72-17、甲73-15)、2022年8月に10,430円(甲72-11、甲73-9)の残業代が支払われている。2020年10月度から2022年11月18日付組合加入通知までの26カ月の間に、3回52,695円の残業代が支払われた。これは月当たりの平均残業代にすると、2,027円である。
(い) 組合加入後の残業差別
申立人組合がA組合員の加入通告を行った2023年11月18日以降、A組合員は一度の残業代の支給もなくなった。月当たりの平均残業代は0円である。(甲72-1~7、甲73-1~5)
(う) 被申立人の残業代支給の実態について
被申立人・K高崎営業所長は、第3回団体交渉において残業代の支給に関して「職権で手当」していたと言明している。不正な恣意的な残業管理が行われていることは明らかである。申立人は2023年6月27日付要求書で「当労働組合に対する差別的取り扱いがなされた疑惑があるので、2022年11月以降の残業代の支給状況について支給された対象、残業時間、支給金額を明らかにされたい」との要求を行った(甲57)が、第4回団体交渉において被申立人は誠実な回答を行っていない。(甲70)
(え) 他の従業員(非組合員)との差別的取り扱い
被申立人は、組合員でない他の従業員には差別的に多額の残業代を支払っている。またKは「皆さんが長距離で行った時も、当然お金かかります。その中で、少しでもと思って、休憩時間とかも色々全部足してですね、そういうふうな時間になった場合は、対応し、… 時間が超えていた場合ですよ。休憩時間と、要はタイムカードで時間管理してる、拘束時間を、拘束時間を全部管理してた、っていうことになるんですけれども」(甲70号証11頁下から15行目~)などと述べて、Kの恣意的なさじ加減で残業代の計算をしていたことを言明している。また営業所長たるKが不当に残業代を取得している疑いさえある。
(お)結論
よって、被申立人が、申立人組合加入通告(2022年11月18日)以降、A組合員に残業をさせない配車・業務を行わせて残業代を支払っていないのは、配車・残業差別であり、労働組合法第7条第1号に該当する。
(2)被申立人が、申立人組合員B組合員に対して、令和5年7月27日付けで「訓戒」の懲戒処分としたこと。
(あ)処分の概要
- 被申立人が2023年7月27日付でB組合員に通知した「懲戒処分通知書」の内容は以下の通りである。
懲戒処分通知書
貴殿に対し、下記のとおり懲戒処分を通知する。なお、下記処分は始末書の提出を要するため、令和5年8月31日に当社に始末書を作成の上、提出すること。
- 懲戒処分の内容
訓戒(就業規則51条1項)
2懲戒処分の理由
当社従業員A組合員と共に、令和5年3月27日、自宅待機期間中に当社高崎営業所周辺で街宣活動を行った上、当社の了承なく当社高崎営業所内に立ち入り、就業規則51条7項5号、同6号及び同9号に違反したため。
- 就業規則の規定について(甲61号証)
第51条
(訓戒・減給・出勤停止・降格・諭旨退職・懲戒解雇)
訓戒とは、始末書を提出させ、将来を戒める懲戒のことである。
7.社員が下記いずれかの事由に該当する場合は、会社の判断で、訓戒・減給・出勤停止・降格・諭旨退職・懲戒解雇のいずれかの懲戒処分を科す。
(5)会社又は所属長の指示・命令に違反したとき
(6)指示命令に従わないとき
(9)業務中、私的な行為をしたとき。
(い)懲戒処分の適法性について
懲戒処分の有効要件としては、一般に、以下の4つを満たしていることが必要とされる。
(1) 罪刑法定主義の原則
基本的には、懲戒事由、懲戒の種類・内容は、あらかじめ就業規則等に定めておくことが必要である。
(2) 平等取扱いの原則
違反行為の内容や程度が同じ場合には、それに対する懲戒の種類や程度も同じでなければならない。特別な理由もなく、人により処分の重さを変えてはならない。
(3) 相当性の原則
違反内容と処分内容が均衡していることが必要。
(4) 適正手続
就業規則などに定められた手続を適正にとっていることが必要。
しかしながら、本件懲戒は、懲戒処分としての有効性を有していない。
- 就業規則が違法に改定され、周知されていなかった。
- 「令和5年3月27日、自宅待機期間中に当社高崎営業所周辺で街宣活動を行った上、当社の了承なく当社高崎営業所内に立ち入り」という行為は、被申立人の違法で間違った自宅待機命令が原因である。自宅待機命令書に記載されたB組合員の行為は懲戒にあたらないとの結論が出たものであり、そもそもが組合つぶしを目的とするものであった。
- 被申立人は、自宅待機命令書に記載された事案については、懲戒ができず、本件懲戒事案を追加して、懲戒に付した。被申立人は佐々木法律事務所の調査報告書の開示を拒否しており、手続きが適正であるか検証さえ拒否している。
- 被申立人は、以下の審問で明らかになったように、懲戒の対象となった行為について、当事者に通知をしていない。適正な手続きを経ていない。
審査委員長 そのことを、この新しい業務妨害行為を調査対象に含めたことを、調査対象者であるA組合員さんやB組合員さんにお伝えをしたのですか。
佐藤 ちょっとそこは、不明でございますが、…文面に…
朝妻 私に聞かないでください。
審査委員長 佐藤さん御自身が、そういうふうに伝えた、あるいは伝えるようにした記億がなければ、それでかまいません。
佐藤 ちょっとそこは記憶にありません。
(第3回審問証言速記録第1冊 42頁下から7行目~)
(う)正当な労働組合活動に対する懲戒処分
憲法第28 条は、労働者が団結して労働組合を結成し、団体交渉を行い、ストライキなどの労働争議を行うことを保障しており、これを受けて労働組合法は、労働組合の正当な組合活動を認めている。労働組合には「団体行動権」(憲法第28 条)、「表現の自由」(憲法第21 条)があり、労働組合は、自らの主張を広く訴えるために、ビラの配布・貼付、横断幕等の掲示、拡声器を用いた演説・シュプレヒコールなどの情報宣伝活動(情宣活動)を行うことができる。
まず、2023年3月27日の抗議行動・申入れ行動がなされるに至った経緯、目的については、3(1)ア(あ)で記載した通りである。被申立人は正当な組合活動に対して、懲戒審査と違法な自宅待機命令を発したのであり、これに対する抗議と申入れは緊急性をもった正当なものである。
被申立人は、この点について「法的手続きを講じることなく、B組合員が街宣活動や高崎営業所への立ち入りに及んだことは違法な自力救済行為かつ業務妨害行為であって、およそ正当な組合活動とはいえない」と非難するがとんでもない。
(え)不当労働行為意思に基づいた不利益取扱い
本件は、A組合員の加入通告・要求書送付から始まる被申立人の契約の違法な不利益変更、不誠実交渉、就業規則の違法な改定、支配介入、自宅待機命令など、一貫した不法行為と不当労働行為の中で行われた懲戒処分である。就業規則の懲戒規定の違法な改定が露見して申立人組合員に対する自宅待機命令書記載の行為の懲戒処分が破綻する中で、なお組合員を懲戒処分にしようとする被申立人の不当労働行為意思は明らかである。
懲戒処分はそもそも制裁罰であり、対象者の査定(賃金)に影響し、社会的評価に影響するものであり、不利益取扱いである。
(お)結論
よって被申立人が、申立人組合員B組合員に対して、令和5年7月27日付けで「訓戒」の懲戒処分としたことは労働組合法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。
以上