吉ヶ谷事件、群馬県労働委員会に最後陳述書提出
安中市の高齢者介護施設・吉ヶ谷(よしがたに)の不当労働行為救済申立事件は結審を迎える。群馬合同労組は、証人尋問にふまえた最後陳述書を群馬県労働委員会に提出した。紹介する。
群労委令和4年(不)第1号・令和5年(不)第2号
株式会社吉ヶ谷不当労働行為救済申立併合事件
2024年1月14日
群馬県労働委員会
会 長 新井 博 様
申立人 群馬県高崎市柴崎町60-2
群馬合同労働組合
執行委員長 清水彰二
最後陳述書
第2回審問において、乙10号証に関して、以下の通りやり取りがあった(第2回審問証言速記録第1冊30頁~)。
清水 専務が永木さんに送ったメールがありますよね。組合員はね、2人だけだと。あれはどういう意図で送ったんですか。
田村 …
清水 最近、Kを中心として指導事項を守らないという職場の雰囲気となっていると。具体的にどういう雰囲気でしたか。
田村 それは確実に私のっていう形なんでしょうか。なぜそういうな形の、文章が、あるんでしょうか。私も。
清水 これ、あなたが書いたメールじゃないって言ってるんですか。
田村 いや、まずそれを、伺いたいんですけど。
清水 だって代理人が証拠で出してますよ。
審査委員長 何号証でしたっけ、乙。
永木 すいません、今清水さんがおっしゃったのは、乙10号証のことですか。
清水 うん、出てますよね。
審査委員長 乙10号証。
清水 それ未だに自分が書いたメールじゃあないという主張ですか。
田村 いえ、私が書いたものだと思います。
清水 思います
田村 はい。
清水 そうでしょ、だって。
永木 すいません、多分今、甲号証のことだと思ってたと思うので、乙10号証を私のほうでお示ししましょうか、一応、もしあれだったら。
審査委員長 はい。お願いします。
永木 1と振ってますが10に替わったので、乙10号証を示します。
清水 そこに書いてありますよね。最近Kを中心として指導事項を守らないという職場の雰囲気となっている。これ、どういうことですか。何を守らなくなってんすか。
田村 ……
清水 覚えてませんか。覚えてないならいいです。次に、X、Yですかね、名前が書いてあって、Kと比較的仲が良く、業務不熱心なところが共通しています。これ、比較的仲が良い、誰が、誰の評価ですか。あなたが見てるんですか。
田村 まあ、あの…
清水 あなたは磯部のこと、よくわかんないですよね。磯部支所のことはよくわかんないでしょ。
田村 全くわからないということはございませんけども。
清水 あなたが見てて、あの2人仲いいなと思ったんですか。
田村 ……
清水 しゃべってください、本当のこと。
田村 いや、真剣に考えてはいますけど。
清水 業務不熱心というのは、どういうことですか。何が業務不熱心だったんですか。
田村 例えば、立ち話をしたり、Xにつきましては、例えば検診の結果を聞きに行くという形で、病院まで行ってしまうんですね、そこで数時間かけて帰ってくると。もし、検診の結果を聞くんであれば、電話で問い合わせしてもいいんじゃないかなと。こんなようなことがありました。あとは、私もXですとかに、話しを言うと、職場のいろんな、悩みというか愚痴っていうのを、小一時間近く伺ったことがあります。これが不熱心だとは思いませんけども、はい…なんとも申し上げられません、そういうお話の。
清水 それはじゃあ、本人に、こういうところを直してねとか、そういう指導はされたんですか。あなた管理者ですよね。
田村 Xさんにですね。
清水 うん。
田村 そういう時には、お話ありますけど…
清水 まあいいです、時間がないので。この2人を人事異動してはどうかと話し合っていますっていうふうに書いてありますけども、誰と話し合っていたんですか。
田村 ……
清水 こうも書いてあります、指導者としてMを磯部に派遣するということも書いてあります。Mさんと相談していたんですか。
田村 その内容は、文章にまとめましたけれども、宛てた先生にも、こういったような形で、尋ねていると。でも実際には、そういったことはしてないわけですから、私が。
清水 いやいや、相談して、相談したのは誰と相談したんですかって聞いてるの。あなた書いたでしょメールで。2人を配転しようと、したらどうかと話し合っています。誰と話し合ったんですか。正直に答えてください。社長、会長とは話し合ったんですか。
田村 どこまで、誰にっていう話がちょっとよく今、思い出せませんけど社長と会長とは。
清水 そんなことないでしょ、だって。社長と話したの。
田村 社長と会長とよく話をしますけれども、その文章の内容で誰とどういうふうに話っていうのは、ちょっとよくわかりません。
この永木代理人に宛てたメールには、被申立人が申立人組合員Kと仲のよいと思われる従業員を配置転換して、代わりにMを磯部支所に送り込むことを話し合っているとはっきりと書かれている。被申立人の不当労働行為意思は明々白々である。申立人の組合通告と要求提出依頼、すべての事態はこの不当労働行為意思のもとに行われていることをはっきりと確認する必要がある。
1
被申立人が申立人組合員T(以下「T」という。)に対し配置転換を命じたことは、労働組含法(以下「労組法」という。)第7条第1号の不利益取扱いに該当するか。
- 配置転換を命じたことの不利益性
- 配置転換に不利益性があったといえるか。
Tと被申立人との雇用契約書には、就業場所を吉ヶ谷磯部支所と明記され、配置転換についての規定はない。一方的で合理性のない配置転換であり、不利益性はあった。
- 配置転換と併せて夜勤をさせないようにし、また、休日を変更したことについて、不利益性があったといえるか。
夜勤をさせなかったことによって、賃金は下がった。配置転換前の月の総支給額は、2022年6月357,076円、同7月359,574円、同8月356,090円、平均357,580円であるが、配置転換後は同9月317,443円、同10月309,346円、同11月305,730円、平均310,840円である(甲55、56、58号証)。平均総支給額で、月当たり46,740円の支給減となった。よって不利益性があった。
雇用契約時に確認した休日の変更によっても、就業時から続く相続や介護などの私生活に支障が生じたので、一方的な変更であり、不利益性はあった。
- 被申立人は、組合員であることの故をもって、配置転換を命じたといえるか。
- 配置転換を2022年9月19日に決定したという虚偽の主張
被申立人は、当該配置転換の決定は、2022年9月19日夜に社長・会長宅において、田村和子社長、田村佳孝会長、田村智専務の取締役全員(甲5号証)で話し合って決めたと主張する。
「本件虐待に当たるとすれば、とても重きに置く判断だというふうにとらえておりました。しかし、当日、会長の田村佳孝はおりましたけども、代表の田村和子はおりませんでしたので、19日の夜に、代表宅を私が訪れまして、調査の結果、事案の内容について代表に報告したわけであります。事案の内容について検討させていただいた時に、代表から様子を見て、当該被害者がいる磯部の事業所に替えて、秋間の本体事業所のほうに、で、Tさんの応接マナーについて確認をしよう、このような取り決めがありました。」
「19日そのような決定をしましたが、20日はTさんが公休日に当たっておりました。私はこの疎明資料を、作成に、業務に、20日は費やさせていただきました。その夜、労働組合の方から、私の私用携帯電話のほうに、Tさんは、組合加入をしましたというような連絡がございました。」
「(永木 そうするとTさんを配置転換したことと、労働組合に加入したことっていうのは何か関係があるんですか。)ございません。」
(第2回審問証言速記録第1冊3頁2行目~)
「解雇しなくてもいいということです、異動ですから」(同15頁1行目)
しかし、これは事実ではなく、虚偽の主張である。少なくとも解雇の撤回は9月19日には決定していない。
解雇通告は社長の同意を得て行ったものではないのかという反対尋問に対して、田村智は以下のように証言した。
「本件の事案について、社長から、確認は取った、このように思います。で、その上、そのようなお話をさせていただいたところではあります。」(同12頁8行目)
また解雇の撤回を9月20日に3人で決めたのかとの反対尋問に田村智は以下のように証言した。
「…その当夜のお話であるかっていうと、ちょっと、記憶がわかりませんが。」(同14頁18行目)
「…時期がちょっと曖昧ですけれども」(同14頁24行目)
また9月20日の申立人の解雇の撤回の申入れに対して、決定にも係らず、解雇の撤回を明言しなかったことに関して、田村智は以下の通り証言した。
「電話が、会社の営業時間に、しっかりとした形でお話があれば、冷静になってちょっと受け答えができたと思いますが、当夜は私は疲れておりまして、多少晩酌もしておりました。その中でちょっと突然の御連絡をいただいたものですから、しっかりとした受け答えができる状態にはありませんでした。お話も大分、あった事実については、お話が、伺えてましたけれども、本当にその辺の、記憶というか、受け答えがしっかりできたかっていうと自信がございません。」(同15頁15行目)
被申立人が、9月20日の申立人の申入れに対して、解雇の撤回を通知しなかったのは、個人的な疲労や飲酒、不慣れが原因ではない。田村智は「解雇ってお話をさせていただいたのは、あの、確定ではないにもかかわらず、なぜこのようなご連絡をいただくのか…」(甲7号証4頁1行目)と言って、解雇は撤回していない(確定ではない)ことをはっきりと答えている。被申立人は一貫して解雇撤回の明言を避けてきたのである。その理由は被申立人が解雇を撤回するとの確認を行っていないこと、解雇ができなくとも何としても退職に追いやるという確認を行っていたことである。9月19日夜に撤回の決定を行っていたのであれば、9月20日から第1回団体交渉に至る申立人と被申立人との以下のやり取りはありえないのである。
- 9月20日の電話でのやり取り
(甲7号証2頁18行目~)
清水 あの、だから解雇はあのー、不当なので撤回を求めます。これあの、書類で出しますけれども、えーっと
田村 解雇は不当であって、口頭では伝えたけれど、えー、書面では伝えてないというこの状態で解雇のてっかい…
清水 いや、解雇理由が明確じゃないので、それに弁明の聴取もきちんとしてないと思われますので、
田村 弁明の聴取、では、あの、こういった事案については、あの明確に聴取されましたか?
清水 なになに?
田村 事案について明確に聴取されましたか?
(同2頁下から4行目~)
田村 申し訳ありませんが、部外のどんなものかわかりませんし、撤回というのもよくわかりません。そして、本件につきまして、どの程度、お話変わるかもしれませんが、これ、事件になる可能性があります
(同3頁下から8行目~)
田村 そうだし、その件につきましては、ええ、事案が事案ですので、あの、これは現在調査中です。調査中ということでお話しします
清水 調査中でなんで解雇通告してんですか?
田村 解雇通告?あのー、申し訳ありませんが、こういったことで、えー本件についてお話しすることはございません
清水 いえいえ、事件のことを聞いているんじゃなくて、調査中であれば、調査の結果が出てから、処分を決めるのが、筋ですよね?調査中なのに、なんで解雇って通告したんですか?
田村 解雇ってお話をさせていただいたのは、あの、確定ではないにもかかわらず、なぜこのようなご連絡をいただくのか…
清水 確定じゃないんですか?
田村 確定ではないんじゃないんでしょうかってのは、なぜあなたは…
清水 本人は解雇って言われたっていうことで相談に来ているんですよ?
田村 そうですか
清水 うん
田村 よくわかりませんから、私どもの話はちょっとここに終了させていただいて、弁護士なり入れさせていただきます
- 2022年9月29日付申入書(甲16号証)での以下の申入れに対する被申立人の無視
「当労働組合は、2022年9月30日までに解雇通告の撤回の意思表明ならびに秋間への配置転換と仕事外しの処遇を撤回して元職に戻すことを条件として、団体交渉の2022年10月30日までの延期に同意することとします。それがなされない場合は、通告通り、不当労働行為で群馬県労働委員会への救済申し立てを行うことを通告します。」
- 解雇通告に伴うシフト変更の追認としての配置転換
さらに、被申立人は、第1回団体交渉における回答において、Tに対して「解雇を勧めたことにかかる着眼点」(ママ)(甲36号証2ページ目13行目~)として「身体的虐待、心理的虐待及び性的虐待を利用者に行ったこと」を筆頭にあげて、安中市の調査結果とは異なる勝手な判断に基づいて解雇通告を行ったこと、今後も「『退職勧奨が相当』と判断した」と回答した(甲36号証3ページ目13行目~)。そして、「被害者家族が…当該事案を行ったものが在職していることは認めていない」「職員は、同人に対し不信の疑念が払しょくできず、この職において絶対不可欠なチームワークが取れない恐れがあり、それは利用者に対するケアの不全は回避できない。その信頼回復のため、本人に求められる求償は困難であろう(ママ)」(同3頁)などとして「今後も退職を勧めるものとしたい」(甲36号証3ページ目下から14行目~)とした。
つまり、被申立人は、解雇の撤回をあえて明言せずに、退職勧奨を勧め、解雇撤回を要求する申立人組合員Tを退職に追いやるという意思を当初隠さなかったのである。
事実の経過としても、Tの勤務については9月18日の夜勤を「しっかりとお話が伺えるまでは」見合わせ変更し(田村智、第2回審問証言速記録第1冊2頁下から16行目)、20日には磯部支所においてZ補佐から「解雇になった」と朝の申し送りで説明があり(K、第1回審問証言速記録第2冊2頁下から13行目)、「日勤も全部消されてい」た(K、第1回審問証言速記録第2冊2頁下から7行目)のである。
申立人から9月20日夜の組合通告と解雇撤回の申し入れがあってから、被申立人が解雇の体制を維持したまま、元には戻さないと確認して、Tを秋間本所に配置転換し、退職に追い込もうとしたことは明らかである。
よって、被申立人の配置転換を9月19日夜に決定したという主張は虚偽であり、申立人の組合通告と解雇撤回の申入れを受けて、Tを元には戻さない、退職に追い込むとして配置転換を決定したのであり、不当労働行為意思ゆえの配置転換であり、労組法第7条第1号の不利益取扱いの不当労働行為であることは明らかである。
2
団体交渉に関する被申立人の対応は、労組法第7条第2号の団体交渉拒否に該当するか。
- 被申立人は、合理的な理由なく、団体交渉の開催を引き延ばしたといえるか。
- 合理的な理由は存在しない
被申立人・田村智専務は第2回審問にて以下のように証言した(第2回審問証言速記録第1冊4頁~)。
「当時の団体交渉に知見を有する専門家の助力を仰ぐべく奔走をいたしました。顧問弁護士にも確認を取ったとこなんですけれども、顧問弁護士のほうは、すぐには対応ができない。1ヶ月程度の猶予をいただきたいと、このような回答がありました。加えて、安中市の行政ですとか、警察に尋ね、疎明される資料というのを提出を求められていたので、それの作成業務というふうに、追われておりました。」
「とても準備が間に合わない状況にございました。」
「1ヶ月後の開催ということを申し入れさせていただきました。」
「(永木 その1ヶ月後に取った理由というのはその当時の顧問弁護士の助言の内容を基にしているということですか。)おっしゃるとおりです。また、疎明する、資料は整わなかったということも事実でありまして、更に追加の要求書なんかが、多岐にわたる、それについて準備するということも、とても困難な状況にありました。一生懸命調べていたところではありました。」
しかしながら、申立人は、2022年9月27日付申入書(1)(甲14号証)にて、「開催日時については、2022年9月26日付申入書にて通告した通り、2022年9月30日を期限とすることについて、変更できません。少なくとも、T組合員の処遇をめぐる問題は一日たりとも延期することはできません。よって、2022年9月22日付要求書記載の第1項~第4項に関して、2022年9月30日までに開催するようにあらためて要求します。」と申し入れた。
また同年9月29日付申入書(甲16号証)にて、
「(1)貴社は、当労働組合が2022年9月30日までに団体交渉を開催するように求めたところ、「鋭意調査中」「不十分な調査結果であれば団体交渉時においてお答えしかねる」との理由で、2022年10月30日までの延期を申し入れています。しかしながら、当労働組合は、2022年9月27日付申入書において、2022年9月22日付要求書記載の第1項~第4項に関しては一日たりとも延期できないと回答した通りです。貴社はすでにTに対して、2022年9月19日に30日後の解雇を通告しています。また当労働組合の組合通告の翌日に突然Tに対して、秋間への配置転換を通告し、以来指導と称して、仕事もさせずに一日「たちんぼ」状態のパワハラ・不当労働行為を続けています。その回答も即座にできないというのであれば、貴社の解雇通告ならびに配置転換・仕事外しの不当性は明らかです。
(2) よって、当労働組合は、2022年9月30日までに解雇通告の撤回の意思表明ならびに秋間への配置転換と仕事外しの処遇を撤回して元職に戻すことを条件として、団体交渉の2022年10月30日までの延期に同意することとします。それがなされない場合は、通告通り、不当労働行為で群馬県労働委員会への救済申し立てを行うことを通告します。」との申し入れを行った。
しかしながら、被申立人の回答は
「団体交渉の開催方法及び日付については、これまでの回答書で述べた理由により、10月30日にリモート方式で行わせていただきたい。開催方法及び日付については、これ以上の問合せは受け付けできかねるため、その旨ご了承されたい」(甲17号証)という一方的なものであった。
田村智は、第2回審問において、9月19日夜に社長・会長・専務の3名で話し合い、解雇の撤回とセットで配置転換を決めたと証言した(第2回審問証言速記録第1冊15頁1行目「解雇しなくてもいいということです、異動ですから」)。証言が事実であるならば、解雇は撤回すると決めたことを回答すれば、申立人は本件救済申立を行わなかった。
よって、被申立人に団体交渉開催を引きのばしたことの合理的理由は存在しない。
- 被申立人が団体交渉の開催条件をリモート方式としたことについて、合理性があったといえるか。
合理性はない。
被申立人は、新型コロナウイルス感染拡大を理由として、一貫して「リモート方式」による団体交渉を主張した。しかし、その理由は新型コロナウイルス感染対策として「当事業所」への「立ち入りを制限している」というものであり、「職員の不要不急の外出を避けることを徹底している」というものであった。しかしながらこれらは合理的理由たりえない。
実際には、群馬県の警戒レベルは2であり、被申立人職場における実態も、事業所への家族や業者の立ち入りを認め、職員や利用者も玄関での手指消毒のみの対策しか行っていなかった。
また職員は特別な不要不急の外出制限を要請されておらず、2022年9月下旬に田村和子社長・田村佳孝会長は他数名と連れ立って県外の温泉旅行に出かけていたことは職員周知の事実であった。
また2022年10月7日には利用者をリクリエーションで「峠の湯」に連れ出してもいる。(第1回審問証言速記録第2冊3頁下から11行目~)
申立人は、団体交渉の会場として被申立人事業所に立ち入ることを求めたことはなく、通常の業務と同様に感染対策を施す、会場における感染対策を徹底すれば、対面での団体交渉はまったく問題なく可能であった。
- 団体交渉において、仮に、被申立人が素性の知れない人物を同席させていた場合、被申立人のその対応は、誠実交渉義務違反といえるか。
そもそも対面での団体交渉を行っていれば、会場に、素性の知れない人物が同席することはありえないのである。
リモート団交の会場を秋間本所としたことについても、田村智は「機材がそろっていたのは、事業所で、あったのは間違いありません。パソコンは用意しましたけども、Wi-Fiの環境ですとか、そういったのが整った事業所しか思いつかなかったもんですから。」(第2回審問証言速記録第一冊36頁下から9行目~)と証言したが、対面での団体交渉を申入れ、群馬県労働委員会へのあっせんをも申請(甲24号証)したにも係らず、安易かつ不誠実に過ぎる。
むしろ、被申立人は、弁護士が代理人として団体交渉に出席できない中で、素性の知れない人物を同席させるためにもリモートでの団体交渉に固執したと考えざるをえない。
よって、誠実交渉義務違反である。
- 結論
よって、被申立人の団体交渉にかかわる一連の行為は労組法第7条第2号の不当労働行為である。
3
被申立人は、次の行為をしたといえるか。したといえる場合、その行為は労組法第7条第3号の支配介入に該当するか。
- 第7準備書面 2虐待再発防止会議について で申立人が主張したことは事実であることが審問を通じて明らかとなった。
- 虐待防止委員会について
虐待防止委員会の開催は、条例で定期的な開催を規定されているが、被申立人においてはT組合員の案件以前に開催されたことがなく、Kが、田村和子のナースコールのスイッチを切った事案で安中市に通報した際にも開催されなかった。
被申立人は準備書面(4)で、令和5年1月30日及び2月9日の開催を主張しているが、「事案の相談があった」だけであり、会議の開催をしていない。
虐待防止委員会の主要なメンバーであるMについては、田村智が永木代理人宛のメールの中で組合対策として磯部支所への人事異動を狙った人物であること、Tへの指導書を繰り返すことに田村智と一体で係ったこと、9月13日の録音ファイルの文字起こし・脚色に係ったことなどが明らかであり、不当労働行為の実行者である。Aも、磯部支所を代表する運営推進委員(被申立人準備書面(3)別紙)であり、虐待防止委員会スタッフである。社長と一体でKに圧力を加えた血縁者である。虐待防止委員会のスタッフが11月29日の利用者家族への説明会においても事前の内容形成やアンケートの準備など田村智と一体で動いている。団体交渉にも出席していた可能性が高い。
よって虐待防止委員会は実体的に不当労働行為の実行者として機能したことが明らかである。
- 虐待防止委員会による不当労働行為
虐待防止委員会は、被申立人経営陣と一体となって、Tの心理的虐待事件を、暴行事件・身体的虐待事件、性的虐待事件と描き出し、安中市の調査結果とは違うそのような説明を職員・利用者・利用者家族に行い、Tに対する批判とバッシングを引き起こした。
第2回審問における田村智の証言で、利用者家族説明会における報告内容は、安中市の調査結果を待たずに、それを無視して準備したものであったこと、身体的虐待と認定されなかった事実を職員に知らせず暴行事件として描き続けたことが明らかになった。
「市の通達っていうのが、ほぼ同時頃にあって、もうすでに開催期日が決まってましたから、そういったようなお話になったと思います」(田村智、第2回審問証言速記録第一冊26頁下から4行目)
「ある程度内容をまとめなければ説明になりません」(同27頁一番下行)
「(清水 あのね、皆さんだから、会社は最初に、組合にもね、回答したとおり、身体的虐待があったと認定をして、ね、そういう説明はみんな受けてるわけですよ。ね。それで、市からは、ね。身体的虐待ではなく、心理的虐待でしたと。ね。身体的虐待については認定されませんでしたっていう結果については、基本的に知らされてないじゃないですか。)
田村 確かに、会社の体制がそう言われればそうですけども、私も何分不慣れなもんですから、体制が決まって何十年も経験して、そのような形であれば、おっしゃるとおりのことができたかもしれませんが。ある1点で、漏れがあったりとか、そういうような形であっても、ちょっと、返答に、わかりません。」(同29頁下から10行目~)
安中市の調査結果(乙18号証)での指導は「8/23、9/13の介助中の事故、ケガについては、身体的虐待までの認定とはなりませんでしたが、介助の工夫や情報共有により防ぐ事が出来た事案と思われますので、再発防止策をとってください」というものであった。「介助の工夫や情報共有」はこれまでも同様の事案を繰り返してきた事業主たる被申立人の努力と責任を指摘したものである。
このように、事件を暴行事件・身体的虐待事件、性的虐待事件と意図的に描き出す説明によって、利用者家族はTを解雇すべきなどの感情的なアンケート記入を行うに至ったし、多くの職員がTに対して悪感情や反感を抱くに至った。
- 運営推進会議を使った不当労働行為
運営推進会議は条例で開催が義務付けられ、開催されてきた。しかしながら、被申立人の主要なメンバーは被申立人経営陣と虐待防止委員会スタッフである。
甲51号証の運営委員会の報告文書では「12月12日(月)午後2時から第5回運営審議会が行われました。今回の会議は主に9月13日に発生した虐待事件及びその後の会社での対策、保護者会への説明、安中市からの虐待と認定されたこと等の報告が主でした。推進委員はこのことに強い意見が出されました。」、「当事者はすでに病気を理由に3か月の休暇願を出し現在休職中ですがこれで事件がすべて解決したわけではありません」などの発言があったこと、「事件の解決」「処分」を求める発言が行われた。また「ぜひ交流を早期に実施することを願うとの意見」が出され、乙10号証で言及された組合差別の人事異動を推進する発言まで行われた。虐待防止委員会で作り出された暴行事件・身体的虐待との説明が行われたことは明らかである。
したがって運営推進会議の場もTに対するパワハラかつ組合弱体化に利用されたと言える。
- 結論
よって、虐待防止委員会や運営推進委員会を使ったパワーハラスメント・組合弱体化が行われたことは事実であり、労組法第7条第3号の支配介入にあたることは明らかである。
- 従業員・利用者家族が閲覧する改善計画書において、(悪意により)Tを「元職員」と記載した行為
被申立人は、甲第4号証の「元職員」との記載に関して、「虐待改善計画書の作成にあたり参考とした書式【乙2】を流用したために『元職員』の表記が残ってしまったものであり、意図的に記載したわけではない」と主張する。
しかしながら、甲4号証と乙2号証を引き合わせれば、日付の変更だけにとどまらずに、「虐待」が「心理的虐待」に、「施設全体」が「事業所全体」に、「苦情対策委員会」が「虐待対策委員会」に、など、書き換えられた箇所は多数に及び、「元職員」だけが書き換え損ねたことはありえない。
職員が共有するメディケアにおいて、このように掲示を行うことはパワハラに該当する行為である。よって、Tを「元職員」と記載したのは、意図的に悪意を持って記載したことは明らかである。
よって本行為は労組法第7条第3号の支配介入である。
- Tに差別的に「指導書」を交付した行為
- 指導書交付について
そもそも介護職場において、必要があれば走ったり、小走りになることは当然のことであり、必要性があれば走ることは適正な業務の一環である。
2022年11月30日に被申立人は、Tが「利用者の排泄介助を行う中持ち場を離れて廊下を走り利用者を驚かせました」として、前日に引き続いて2回目の指導書を交付した(甲10号証)。この「走った」とされる現場でのやり取りは以下の通りである(甲19号証1頁下から12行目~)
T …応援が欲しかった
M で、この時に誰か来てくださいってここで言えば、みんないたんだから、うん、あの声がすれば私たちも来るんだけど、声がしないで、 タナカさんが1人で向こうにここに来るのはやっぱりダメだと思うんだよね。何かあった時にはここで呼んで、
T はい、
M ここで おっきな声出しても「すいません」って言えば、向こうに聞こえるから、
T そうすればよかったですね
M そう、うん。うん、ここでだからあ、誰か来てくださいって言えば絶対聞こえるんで、うん。今度から走らないでそうにしてください ね。絶対聞こえるから、私もあそこにいたし、
T あそこまで見えなかった。
M 見えなくてもいいうん、声だけ出して、うん、そうすればなんか言ってるっていうのは聞こえるんで、うん、はい。
Tは利用者の排泄介助中に応援が必要になり、近くに人がいなかったので、誰かを探しに走った。それをM氏が大声で呼ぶように指導して、Tは「そうすればよかった」と話した。
この点に関して言えば、Tは秋間本所に異動になってから、被申立人から「虐待」で利用者にけがをさせて研修になっているとして、業務をさせないなどの扱いを受け、同僚からも冷たく扱われる、無視をされるという状況が続いていたのである。田村智専務と田村和子社長が「とんでもなく厳しく」なると言った通り、応援を大声で呼んでも対応してもらえないような状況が続いたのであり、応援を探しに走ったのには理由がある。
この状況について、Tは清水彰二に対して以下のように報告している。
「11月30日、Tがトイレ介助中、明らかに応援が必要な状況であるにもかかわらず、皆無視をしていた。そのため比較的声をかけやすい人のところへ駆けり(※「走り」の間違い)、応援を求めた。それを見たMがトイレに走ってきて「今走った!」と騒いだ。続いて専務も事務所から飛び出してきて、「僕も見たぞ!」と騒いだ。その直後に2度目の指導書を突きつけた。」(甲20号証)
しかも、指導のやり取りの中で、Mは「利用者を驚かせ」たとの指摘や注意・指導は何も行っていない。
Mは「大きな声出して、『すみません』と」呼べばいいという指導を行い、Tはわかりましたと答えた。ところが、すでに指導書が用意されていたかのように、間髪を入れず、田村智とMによって、「指導書」が交付された。Mは現場でTが反省の弁を述べているのを聞いているにも関わらず、「反論する余地がない」「これ署名お願いします」「指導されてることもわからないの?それ重症だよ。」「ダメだよって言われて何も言いませんってどういうこと!」(甲19号証下から15行目~)などとTを責めた。
被申立人は、準備書面(3)で、「令和4年8月頃から10月上旬にかけて、トイレ介助の際にT氏が他の職員に対し「誰か」と大声で声をかけ同介助の補助を頼むことが何度かあったとの報告を他の従業員より受けている。もっとも、具体的な状況や時間が不明であったことから、その際は指導書を交付していない。」(2頁下から10行目~)と主張した。Tが、日常的に、大声で応援を求めていたこと、それでも応援がなくて走らざるをえない状況があったこと、被申立人が大声で応援を求める行為も指導書交付の対象と考えていたことが明らかである。
Tに対する「走った」ことを理由とする「指導書」交付は被申立人が組織的に仕組んだものであることは明らかである。
- Tに対する差別的処遇について
Tが秋間本所に配置転換されてからの差別的処遇、いじめ行為は以下の通りである。これらも申立人組合員たるTを退職に追いやるための行為であった。
「最初は、ただ他の職員の介助の仕方や利用者との接し方をよく観察して学べと、ずっと立って見ていることを指示されました。」(甲95号証4頁11行目)
「その後、利用者として入所していた私の実の母だけは介助を許されました。」(甲95号証4頁13行目)
「しばらくすると業務を行うように指示されましたが、今度は差別的に業務を押しつけられたと感じるほどの業務を指示されました。他の職員と協力して業務を行おうにも声をかけにくい雰囲気ができていました。
差別だと思ったのは以下のようなことです。
〇全員から汚い物を見るような目で見られ、無視をされていた。
〇異常に監視され、上げ足取りやあら捜しをされた。言いがかりもつけられた。
〇個々の利用者についてほとんど教えられず、うまくできないと責められた。専務に呼び出され、取り調べのようなことをされたこともあった。
〇入浴介助や浴室の清掃など、負担の大きい仕事を差別的にやらされた。
〇移乗やオムツ交換等が大変で、負担の大きい利用者の介助を差別的に専属的にやらされた。
〇急な歩き出しなど危険な利用者がいても、気づかないふりをして対応を押しつけた。
〇トイレ介助などで明らかに助けが必要な場合であっても、無視された。
〇生活の妨害。以下のような状況があったが、それを妨害するように差別的に休日を土日のみに制限され、携帯電話を差別的にホールのレターケースに入れさせられ、そのチェックをリーダーの仕事と決められていた。」(甲95号証4頁下から18行目~)
- 指導書交付は支配介入
Tが「走った」「利用者を驚かせた」などを理由とする指導書の交付は、Tに対する差別的パワハラの一環であり、労組法第7条第3号の支配介入の不当労働行為である。
- 職員会議でTの診断書と休職届を回覧したり、更なる責任追及をあおる行為
- 診断書と休職届を回覧
被申立人・田村和子が以下のように発言して、2022年12月6日の職員会議において、Tの診断書と休職届が職員に回覧されたことは事実である。この会議において、他の書類が回覧に付された事実はなく、同回覧が、Tの診断書と休職届であることは間違いがない。(甲63号証)
「(07:42) 社長:…私コピーがあります。みなさんに見ていただければ。それは原本ではありません。」(田村和子、甲65号証3頁下から13行目)
これはTのプライバシー権を侵害し、個人情報保護法に違反する違法行為である。また重大な病歴を会議に出席した職員全員に回覧することで、Tに対して重大なストレス・不安を与える安全配慮義務違反である。
- 更なる責任追及をあおる行為
2022年12月12日に開催された推進運営委員会にて以下のような状況があった(甲51号証)
「今回の会議は主に9月13日に発生した虐待事件及びその後の会社での対策、保護者会への説明、安中市からの虐待と認定されたこと等の報告が主でした。推進委員はこのことに強い意見が出されました。」
「当事者はすでに病気を理由に3か月の休暇願を出し現在休職中ですがこれで事件がすべて解決したわけではありません」などと「事件の解決」「処分」を求める発言が行われた。
また「ぜひ交流を早期に実施することを願うとの意見」が出され、乙10号証で言及された組合差別の人事異動を推進する発言まで行われた。
- 結論
職員会議でTの診断書と休職届を回覧したり、更なる責任追及をあおる行為が行われ、それらが労組法第7条第3号の支配介入の不当労働行為であることは明らかである。
- 申立人組合員Kへの指導のための配置転換、パワーハラスメント及びいじめを企図していたこと。
田村智専務がKを孤立させることを企図していたのは、乙10号証の証拠に明らかである。被申立人が申立人組合員Kと仲のよいと思われる従業員を配置転換して、代わりにMを磯部支所に送り込むことを話し合っているとはっきりと書かれている。被申立人の不当労働行為意思は明々白々である。
事実、この組合差別により、「比較的仲がよい」とされたX氏は、「業務不熱心」と理由もなく中傷され、退職を決断せざるをえなかった。
甲70号証に示したように、X氏は、被申立人経営陣に対して、強い不信感と不満を抱いていた。しかし、申立人組合に加入すると、Tのように配置転換されたり、TやKのように監視されたり、ことあるごとにパワハラや嫌がらせを受けることを目の当たりにしていた。X氏に対して、Kが組合に加入するように話したことがあるが、X氏は最後までこれには同意しなかった。このようにKを孤立させることが、被申立人従業員の、申立人組合への加入や協力を阻害する大きな影響を与えた。
実際にX氏は申立人組合に加入して、職場の改善のために力を合わせるよりも、退職する道を選んだ。「組合に入っているか否かどういうルートかわかりませんが、調べてる形跡があります。」「証拠はないですが事務所では恐らく私たちの会話録音されています」(甲70‐1、2023年1月1日)などとX氏がラインでKにメッセージを送ったような状況がある。被申立人の組合差別が結果したものである。
乙10号証に記載された通り、2023年4月度から人事異動が行われ、Mが磯部支所にも出勤することになった。当時磯部支所では、看護師のX氏が退職して看護師の配置のない状態にあった。乙9号証によれば、当時磯部事業所には看護師のB氏が在籍していたにもかかわらず、Mを看護師として磯部に派遣しようとしたものであった。また当時Mが磯部支所に出勤する予定の日はすべてKの出勤日であった(甲21号証)。
2022年10月30日に開催された第1回団体交渉において、被申立人・田村智はKに対する懲戒処分を検討していることを明言した。(甲33号証12頁2行目~)
2022年10月12日に田村和子、田村佳孝、Aらによって、残業代の請求額をすぐにこの場で出せとパワハラが行われた。(甲17号証)
被申立人・田村佳孝会長がKを「おまえ」と呼ぶパワハラ行為が行われた。「おまえの判断で有給取れる訳がない」(2023年1月16日7時30分頃)、「なんで、おまえ1人で書いているんだ。」(2023年2月13日14時頃)などである。
これらは申立人組合員たるKに対する労組法第7条第3号の支配介入の不当労働行為である。
以上