読売新聞足利西部店不当解雇事件で群馬県労働委員会が不当命令

10 6月 by gungoroso

読売新聞足利西部店不当解雇事件で群馬県労働委員会が不当命令

 2022 年 6 月 8 日、群馬県労働委員会は、読売新聞足利西部店 N 組合員の不当解雇撤回を中心とした救済申立てに対する命令を交付した。命令は団体交渉の不誠実交渉に関しては労働組合法第 7 条第 2 号に該当する不当労働行為であると認定して組合への文書の交付を命令したが、解雇について不当労働行為と認定せず、救済命令を出さなかった。勝利を信じてきた当該組合員・家族の失望・落胆は大きく、組合としても怒りを禁じえない。

解雇に合理性・相当性はない

今回の決定は、組合の主張通り、読売新聞足利西部店(株式会社辰巳)がN組合員に対して行った普通解雇には合理性・相当性はないとはっきりと判断している。解雇の理由はひとつもないのである。

 すなわち

①就業規則該当性には疑義がある

②社会通念上も「バランスを失している」。「手続き上の瑕疵がある」。

③解雇は「更新拒絶」にあたり有効との会社の主張も認められない。

 それほどはっきりと解雇には理由がないと命令書は断じている。この命令書を読んだ組合員は、「なぜ棄却なのかわからない」と言うばかりだ。

解雇は「組合員であることを理由としたものとはいえない」

 命令書は、解雇に合理的理由はないが、労働組合員であることを理由とした解雇とは言えないというのである。

 命令は、N組合員と組合が会社が提示した労働条件の切り下げ(月給制と賃下げ)に同意するならば、会社は雇用を継続する意向だったことを重視した。つまり労働条件を下げることにN組合員と組合が同意すれば解雇しなかったということは、組合員であることで何が何でも追い出そうとしたとはいえず、むしろ「会社が労働条件を有利に進めるための材料」「会社経営上の判断」故の解雇であり、「反組合的感情によるものであるとまではいえない」と結論づけているのである。

不誠実交渉で救済命令

 もう一つの争点は、団体交渉が不誠実交渉で労働組合法第7条に違反するか、という点である。群馬県労働委員会は、株式会社辰巳の第3回団体交渉について不誠実交渉と判断し、労働組合法第7条第2号違反と断じた。不誠実交渉の内容は、①代理権をもたない経営コンサルタント「春日大輔」に、権限の付与について明確に示さずに、代理させて交渉に当たらせたこと、②「予め要求書に記載された要求事項に回答できる者を出席させなかったこと」(以上、合意達成の可能性を模索する義務違反)、③組合の適切な判断を誤らせるおそれのある虚偽の主張を繰り返したことである。そして株式会社辰巳に対して、不当労働行為を認め、再発防止を誓約する文書を組合に交付するように命じた。

 だが一方、第4回団体交渉に関してはそれは当てはまらないとして、不誠実交渉と認めなかった。

時給制をベースにN組合員の給料を算定するとの合意について

 今回の命令で、大きな問題は、群馬県労働委員会が、時給制をベースにN組合員の給料を算定するとの合意が組合と会社の間で成立していなかったという判断を行ったことである。これが解雇問題での棄却につながっている。

 「組合は、第2回団体交渉までに会社との間に時給制をベースにすること等の合意があったと主張する。確かにその方向で交渉はされたが、会社は、第2回団体交渉においてN組合員の主張する新聞配達に要する時間について疑問を呈しており、時給制のもとでは勤務時間が給料の額に大きく影響することから、時給制をベースにN組合員の給料を算定することについて、明確な合意が成立していたとは評価し難い」と断じた。

 この点について、確かに「明確な合意」が成立していたとは言いにくい。しかし、それまで存在しなかった就業規則を作成させて、労働時間について、適正な時間を確定するために、追尾測定なども含めて努力したのは、時給制を確立するため以外の何ものでもなかった。細かい不一致はあっても「その方向で」合意は存在したのだ。新聞配達業務において、どんぶり勘定で経験の浅い労働者が下手をすると最低賃金を割りこむような現実がある。確かに日によって、人によって、配達時間には大きな違いが出てくる。しかし、労働組合の取組みをもって、きちんと業界の労働条件を透明性のあるものに作り上げていこうと組合は闘ってきた。会社もそこから逃げられなかった。そのことに追い詰められたが故に、たった一回の無断欠勤に飛びついて、N組合員を解雇してゼロに戻そうとしたのである。その解雇に合理性も相当性もないというのは、群馬県労働委員会が断じた通りだ。月給制と賃金切り下げに同意をすれば解雇しないと会社は言ったが、それは屈服するなら解雇しないでやるというものだ。組合が業界に時給をベースに透明で適正な労働条件を確立しようとしたことに対して、会社はデタラメな解雇で対抗したのである。これが組合敵視でなくてなんであろうか?これこそ不当労働行為ではないのか?労働組合の団結権を擁護すべき、労働委員会として、ここを見ずに不当労働行為を認めなかったことは決して許すことはできない。

 国鉄分割民営化=国家による国鉄公務員の全員解雇・選別再雇用から始まった日本の新自由主義は、労働者の雇用を破壊し、非正規労働者を大量に作り出して、労働者の団結と労働組合を解体した。それからの35年、労働基準法も労働者の権利もないに等しい労働の現場を作り出している。自分の雇用主がわからない、雇用契約書も就業規則もない、いやならやめろ、こんな状況に怒り、声をあげたら解雇される。こんな現実を変えるために立ち上がる労働組合の権利・団結権を擁護するのが労働委員会のはずである。明確な合意を作るために、現場は苦しみながら闘っていることを労働委員会にはしっかり受け止めてもらいたい。

 昨年度の群馬県労働委員会年報を見ると不当労働行為を争った4件のうちの3件が群馬合同労働組合である。そのどれもが、同じように、新自由主義・未組織の現場からの闘いなのである。闘いや取組みがなくなれば、労働組合法も労働委員会も存在意義はなくなってしまう。

 いずれにしても群馬合同労組は、この合理性も相当性も存在しない不当解雇は撤回させるまで闘う。読売新聞足利西部店には責任を取ってもらう。

 そのうえで、2020年初から始まった読売新聞足利西部店での闘いと、2020年8月以来の解雇撤回の闘いは重要な闘いであった。群馬合同労組は、もちろん労働委員会や裁判闘争での勝利を重視する。徹底的に闘う。しかしまた、闘いは決してその枠で勝敗が決まるものではない。

 N組合員の闘いを通じてわかったことは、新自由主義が独占資本たる新聞資本をも存続さえ危ぶまれる苦境に追いやっていること、その矛盾は現場の労働者に押し付けられていること、現場は奴隷状態と言えるほどの過酷な現実であること、この現実に対して労働組合に団結して闘うことだけが希望であること、である。今ここにいるN組合員は組合に相談に来た時のN組合員でもなければ、解雇通告された時のN組合員でもない。自分の未来のためには労働者階級の団結と闘う労働組合が必要であることを理解し、そのためには自分が不屈に前に出て闘うことが必要であり、そういう生き方に誇りをもったN組合員である。群馬合同労組は、N組合員とともに、解雇撤回を勝ち取る。労働者が、誇りをもって、自分らしく生きられる社会を建設するために闘う。皆さん、ともに闘いましょう。

3 Comments

  1. 宮城県名取市の新聞販売店で不当なコロナ解雇闘争に勝利した労働者です。いつも足利の闘いを注目して応援しています。頑張って下さい。

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