中央タクシー分会賃金減額攻撃との闘い
昨年6月に始まった中央タクシー分会の闘い。闘いが始まるや、二つの不当労働行為との闘いとなっている。一つは川谷内分会長の運転乗務はずし=仕事を与えないという攻撃との闘い。国鉄の分割民営化の時の「人材活用センター」型の攻撃との闘いがすでに10ヶ月になろうとしている。群馬県労働委員会で不当労働行為救済申立を行いつつ、「敵よりも一日長く」の不屈の闘いが続いている。
それともう一つが、二人の組合員に対する「稼働手当」約八万円の減額攻撃との闘いである。
第一回の団体交渉の中で、総務部長は三六協定の締結について「どうやって選んだんですかね?労働者代表の選出は。所長が?」と聞かれて「いや、私ですよね。」(指名したんですか?)「そうですね。お願いしますと。」(それは違法ですよね。)「はい。」とはっきりと答えている。分会は、その後の会社の不誠実な対応に対して「三六協定が違法な状態なので残業は拒否する」と通告し闘った。それに対して会社は、組合員2名が「一切の残業を行わない」と言明した、それに譲歩して二人には残業をさせないようにした、それにともなって固定残業代である「稼働手当」を、労働の実態にあわせて約8万円減額したしただけであって、違法ではない、と開き直っている。
中央タクシーの賃金形態は、それまで基本給160,000円、「稼働手当」114,600円の固定制だった(「定額働かせ放題」。これによって過労死するような長時間労働が強制された)。それを組合員二人に対しては、「稼働手当」を35,000円に減額したのだ。実に79,600円、手取りで言えば給料の3分の1が減額された。普通なら食べていけなくなる。組合は基金を呼びかけ、ただちに生活破綻する組合員には貸し付けを行い、堪え忍んでもらって、闘う体制を作った。もう7ヶ月になる。
会社はこの通告を昨年8月下旬に、一方的に「労働条件通知書」を作成し、二人の組合員に提示した。しかもその日付はその年の「8月1日」になっていた。当然二人の組合員は署名も捺印も拒否した。
会社は8月分の給与から、この減額を強行。8月の途中から8月分の給与の減額を通告し実行する。これが通るわけがない。労働基準監督署に申告し、8月分については是正勧告が出され、会社は支払いをせざるを得なくなった。しかし9月分以降については、「労働契約法」の問題であり、「労働基準法」の問題ではない、と、労働基準監督署は介入をしなかった。
組合は、組合員に対する差別的取扱いであるとして、群馬県労働委員会への不当労働行為救済申立を準備する一方で、「労働契約法」違反であるとして、二人の組合員が少額訴訟での提訴を行った。少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り、1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする、特別な訴訟手続だ。
組合は、「一切残業をしない」などと言明したことはなく、「稼働手当」減額に同意したこともないのであるから、一方的な減額は明白な「労働契約法」違反であり、一回の審理で勝訴できると踏んでいた。ところが、藤岡簡易裁判所は、原告も被告も一回での審理での判決を望んだにもかかわらず、責任ある判断を下すことが出来ないとして、裁判所の職権で通常裁判への移行を決めた。労働者にとって、長期の裁判を継続することがどれだけ大変なことか、しかも弁護士を頼んで金を払えば何も残らないような訴訟だ。当初、裁判所の決定に怒るしかなかった。
しかし、この裁判闘争が、いまや決定的な地平を切り開きつつある。
まず、先行するT組合員の裁判で集中して闘うために、S組合員の提訴は取り下げた。そして、組合が全力でバックアップしつつ、T組合員が、代理人を立てずに自分でがんばるという体制を確認した。T組合員は、専門の法律書を買い込んで、必死に勉強をはじめ、今や自分で法律書から証拠をも探してきて、準備書面の作成、書証の整理とがんばっている。すごいことだ。
一方の会社は、人に言えない悪だくみがあるからだろうか、代理人弁護士も立てられず、書類を作って糸を引いていると思われる悪徳社労士のもと、社長自らが、総務部長一人を従えて、裁判も労働委員会も団交も表にたつ。ところがいつも人に準備させているものだから、法廷でも団交でもしどろもどろで、どうしようもない恥をさらす。裁判ではほとんど裁判長から叱責に近い注意を受ける始末。
裁判では、要するに、会社は従業員の労働時間管理をまとも行っていないということが明らかになろうとしている。就業規則で規定したタイムカードさえ置いていないのだ。それにタコグラフ(運行記録)の改ざん、業務日報の改ざん、団体交渉での無責任な対応、いくらでも証拠がある。そしてT組合員が、徹底した「メモ魔」であったこともさいわい、ノートに記録した出退勤時間を証拠にして会社の労働時間管理のデタラメさを論証しつつある。驚いたことに、会社が二人には残業をさせないと言った昨年10月にも、時間外・深夜賃金が月35,000円を超えていることが判明。組合員には残業をさせていない、それでもお情けで「稼働手当」を35,000円も払ってやっているという会社の論拠はボロボロだ。これについて裁判所が、会社の主張の裏付け、証拠を提出するように指示をした。会社は、証拠も出すことができず(出せるわけがない)、ただただ裏付けのない、勝手な主張を言いつのるだけで、裁判所をあきれさせている。
裁判での攻防は、労働委員会での不当労働行為を明らかにする上でも決定的な意味を持ってきた。何よりも、労働時間管理のインチキを、明らかにしつつある。労働委員会ではむずかしかったかもしれない。何よりも、T組合員が、闘争の主役として、メキメキと力をつけ、自己解放的に立ち上がっていることがすばらしい。勝利するまで闘う。